5. イヤ、かなり。

 ——二人がガサゴソし始めて数分後。


 事件は起こった!



「ああ……なんだか……頭がクラクラ……」


 と弱々しく垂れながら……


 倒れた!


 無精髭の先輩の方が。



「大丈夫ですか先パァイ!」

 と、ギャルギャルした一年生は、膝枕の体勢でレスキュー。

 絶対領域のクッション性はかなり優秀らしい。


 すると……



 ___●<コロッ!

 無精髭の先輩のポケットから、真っ黒な球体が、床上をころころりん。



「えっ? ナニコレ!?」


 それは、スッポンの胆嚢たんのう、通称苦玉である。


「やっぱり……グヘヘここにいると……イイナァココなぜか……モウスコシダケ体調不良に……」

 無精髭の先輩は、意識朦朧もうろうとしながらも、何がなんでも謎を解き明かしたそうにそう言っていると思わせつつ、実はというと半分には膝枕を楽しんでいる。


 楽しんでいると……



「あーっ!」

 ギャルギャルした一年生が叫び立ち上がる。

 無精髭の先輩、床に頭コーン!

「いでっ!」



「わかりましたよ、先パァイ! ここ、傾いているんです!」

「えっ、それはつまり……どういうことだ?」

「そこ、見てください先パァイのポッケから出てきた、黒い玉っころ」

「あ、さっき今秋初スッポン記念にとっておいた、苦玉だ……ころころ、転がってる!」

「そうです。ダメ押しに、傾いている証拠として……」


 ギャルギャルした一年生は、商品棚から水平器付きの巻き尺スケールを拝借して、床に置いた。蛍光緑の液内の泡は、水平を示す中央の線から、少しれている。


「なるほど。俺は、ここの床をパッと見で、水平だと思い込んで立っていた。でも実際は違った。傾いていた。多分、俺の体は、俺が無意識のうちに、傾きを補正して真っ直ぐ立てるよう取り計らってくれていた。視覚的には水平、でも体は微妙な傾きを感じ取っている。このズレにより、平衡感覚にバグが生じて、なんやかんやで体調不良につながった、のか」

「そんな感じでしょうね、たぶん」

「でもどうして俺だけが体調不良に?」

「あ、それでいうとウチ、趣味でフィギュアスケートやってるんですよねー。三半規管、強いんです。ていうか先パァイ……どうしてずっと寝転んでるんです?」

「え? あ、いやぁ、あの、その……眺めが、いいんだよ、ここ」


「……」

 ギャルギャルした一年生は、無言で、無精髭の先輩の目元を踏みつけ、グリグリして、視覚を奪う。


「ぎゃっ!」

「これで、この購買部の床が水平だなんていう先入観は、なくなりますよね? だって、見えませんもんねー……色んなものが!」



   〈キンコンカン!〉

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魔の購買部 加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】 @sousakukagakura

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