第29話

「澤山監督に芸名を頂いた?」

矢野も真理子も目を丸くしている。

「それはいい。周りのお前を見る目も変わるだろう」


矢野寧々から伊能まどかという芸名を使った途端に映画雑誌の撮影の仕事が来た。

映画も好評で、寧々にはドラマの話が来た。だが内容が全く違う。人気作家のベストセラーのドラマ化であるゲームの開発物語である。完全なる社会派ドラマである。主役は東堂雅彦。超大物俳優である。寧々の役はその一人娘。反抗期で父親とは口も利かない。

今までの青春ドラマから一転していた。


「これは演技力が求められるぞ」

矢野は台本を読んでそう答えた。

矢野も真理子もそれぞれドラマの出演があったので、寧々の稽古は劇団月で行われる事になった。

「お父さんはゲームに取り憑かれてるのよ!お母さんの事も私の事もどうでもいいんだわ!」

「違う!違う!ただ感情込めればいいって訳じゃない!」

演出家の竹中の指導も厳しくなった。

「それでは河本作品には出られないぞ」

河本郁也…… 今まで数々のベストセラーを生み出して来た人気作家である。出版された小説はことごとくドラマ化していた。

「笑里は後に父の一番の理解者になるんだ。試作品のゲームをして感想を言う。父の情熱に次第に絆されていく。

お前からは笑里の悲しみも父への思慕も伝わって来ない。今のままではダメだぞ。寧々」

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