死んだ彼は復讐を望まないなんて嘘
八方鈴斗(Rinto)
死んだ彼は復讐を望まないなんて嘘
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
死んだ人は復讐を望まないなんて、嘘なんだと思う。
そうでないと、こうも何度も夢枕に立つことはないじゃない。
初めて彼が夢に現れたのは、私も死のうと思っていた時だ。
「君は、僕が見える? 気づいてくれてる?」
死んだ彼が、私の唯一の生きがいが、目の前で微笑んだ。
2回目の夢の時、私は信じられなかった。
「僕の隣の席の女子、いるでしょ。僕、あの子に殺されたの」
クラスの皆に愛された彼の、その瞳が悲しげに揺れた。
3回目の夢の時、私は困惑した。
「なんか事故に見せかけて、殺されちゃって」
二人は付き合ってると噂される程、仲良く見えたのに。
4回目の夢の時、私は教わった。
「聞きたい? 僕があの子に、どんな風に苦しめられたか」
その酷さに、私は目覚めてすぐ吐いてしまった。
5回目の夢の時、私は提案した。
「あの子の罪を暴く? うん。出来るなら、いいけど」
だけどあの子は頭が良いから、殺人の証拠は見つからなかった。
6回目の夢の時、私は決心した。
「本当に? あの子に復讐するの? いいって、危ないよ」
言葉にこそしないけど、でも彼の顔は歓びの色を宿していた。
7回目の夢の時、私は泣いて謝った。
「うん、いいんだよ、無理しなくていいから」
数多のチャンスを前に動けず、私は意気地なしだった。
8回目の夢の時、私は誓った。
「無理しないで。君の気持ちだけで、もう充分嬉しいんだ」
彼のその言葉を糧に、私は今度こそと準備を重ねた。
夜道で独りになったあの子を、私は包丁で刺し殺した。
彼の無念も、晴れたはず。
だからこうして、9回目があるのが意外だった。
お礼でもされるのかと思っていたら、
「夢と現実の区別くらい、つけなよ」
どろどろと溶けていく美しい彼。
その中から現れたのは醜い私。
「夢で見る内容なんて、自分への慰めでしょ?」
今思えば、あの子。
死ぬ寸前まで泣き喚いていた。
大好きな彼を殺すわけない、って。
復讐を望むのは生きる私の特権だった。
それは甘美で、生の歓びに満ち溢れている。
そもそも人間は、誰かのせいにしたがるものだ。
善人が理由なく死ぬという事を、受け入れるのが辛いから。
そう。あの子が殺した証拠なんて、何一つ無かったのに。
死んだ彼は復讐を望まないなんて嘘 八方鈴斗(Rinto) @rintoh0401
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます