第17話 聖都の夜

 聖女が住まう都市、【聖都】。


 王国の政治の中心である【王都】は、実は国の中央には無く、王国地図上のやや右上にある。

 そして、替わりに中央にあるのが【聖都】だ。


 何故国の中心である【王都】が端にあるのかと言えば、建国と魔族誕生に関わる長い話になるので省略。


 何故国の中心に【聖都】があるのかと言えば、信仰の対象を詣でやすいということと、正にこういった状況に対応するためだそうな。


 そしてオレは今、フィナの状態に後ろ髪を引かれながらも、【転送】を使って【聖都】にいた。


 フィナの魔素汚染の深度が気になるのは確かなのだが、薬草をベガルタに届けている最中のオレがあの場にいるはずが無い以上、顔を出す訳にはいかない。


 と言うことで、一度本部に戻ったオレは、そのまま此処へ跳ばされた。

 理由はまあ、お届け物諸々だ。


 調度品も何も無い……いや中央に指輪の台座を巨大にしたような物が鎮座している真っ白な部屋で、エアバイク形態の美夜から降り立つと、待つまでも無く大きな扉が開いて一人の少女がやって来た。


 真っ白い髪と肌。豪華なローブも真っ白な少女は、その瞳だけが金色に輝いている。

 オレは周囲に人の気配が無いことを確認すると、ヘルメットを外して右手を上げた。


「よう、チビっこ。元気だったか?」


「だーれが、チビでのろまな食いしん坊だ!」


「いや、そこまで言ってないだろ!」


「ふんっ。言わずとも目を見ればわかるわい!」


 そう言って腕を組む少女が、金の双眸でオレを睨みつけてきた。


 腰まで伸ばした真っ白な髪が、立ち止まった勢いで微かに揺れている。


 これが【聖女】テスタ・ラーフェス。

 自称12歳。実年齢312歳の少女だ。


 エルフでもないのに長命なのには理由がある。

 簡単に言ってしまえば【呪い】だ。


 膨大な聖魔力と引き替えに呪われた、死ぬことが許されない少女。それが【聖女】の正体だった。

 だがまあ、彼女は同情なんかされたくないわけだが。


 ということで、オレは彼女の頭をポンポンと叩いて台座を見た。


「しっかし、あんなバカでかい【オーブ】をよく運びだせたよな」


「まあたまだから? 転がせば早い」


「うっわ。だから物の価値が分からん奴は……」


「それが未来の国王第一候補だから、世も末よ。でアレはどんな感じ?」


 と、その声を待っていましたとばかりに真っ白いドレスの少女モードとなった美夜がオレの隣に並ぶ。

 すると、急に真顔になったテスタが美夜に頭下げた。


「御使い様に置かれましては、人間界の些事にも拘わらずお力添えをいただき、誠に申し訳ございません」


「ちょい待て。オレへの対応と差がない?」


「あたりまえ。こちらは女神様の正式な使徒様。私は女神様を主神とする教会の聖女。お前は雑種」


「ひっでえ!」


「マスター。聖女のこれが、私への正常な対応です」


「聖女が正常って洒落かよ」


「そうだな。お前が私をもう少し敬うならば、私も対応を考えよう」


「そんなこと思って無いくせに」


 と言えば、テスタはテヘっと舌を出した。


 オレは持っていないが、美夜は空間魔法の【収納】が使えるので、地竜の魔石は彼女に持ってきてもらっていた。


 で、早速それを出して台座にセットすれば、持っていかれたオーブと遜色ない物であることがわかった。

 よかった、よかった♪


 それにオレが魔力を注入する。


「うむ。私が十何年もかける魔力の充填が、このスピードで出来るのを見るのは、何とも言えんな」


 とテスタが笑う。


「なあテスタ」


「ん?」


「無理するなよ」


「まあ、これでも聖女だから。奇跡を見せないといかんだろ。でも、半年では戻れないかもしれん……」


「人が増えたからな」


「私が救った結果なのだから、自業自得よ」


「まあ、目が覚めたら真っ先に来てやるさ。そしたら、ご褒美にたらふく食わせてやる」


「ふん。まるで私が食いしん坊みたいじゃないか」


「パフェ大盛り、食べ放題もつけるぞ!」


「のった!」


 笑顔で応えた【聖女】は、右手をヒラヒラと振りながら、儀式の準備為に部屋を出ていった。


 そして【聖女】は、【広域治癒魔法】の反動により、深い眠りについた。

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