第16話 餓竜の夜④

 さて、これでこのだだっ広い空間に残るのはオレと地竜だけ。

 任務で言えばここまでで、後は撤退すればいいだけのはずなのだが……。


「どうだドーナ。上手くいったか?」


 転送先の状況が心配なので、念の為訊いてみる。


『ちょっと待ってて……どう? コーディネーター。

 あー、大丈夫。全員の帰還を確認したって。

 戻っていいわよ~って言いたいけど、オーナーから追加オーダーだってさ』


「何それ、スッゴい面倒くさそうなんですけど!」


 などと言いつつも、何となく言わんとする内容は想像出来るので地竜を見る。


「オーダーって……もしやアレか?」


『状況的にソレしかないよね~。今回の件もあるから、地竜の魔石が御所望だそうよ』


『私からも補足よ』

 とコーディネーターことヨウカが割り込んでくる。


『オーナーからの連絡でね、先程【オーブ】が王国軍に持っていかれたそうよ。

 当初は【クサナギ】を使う予定だったけど、誤魔化し用に「代用になる大型魔石があればなお良し!」だそうよ』


 あー。確かにあの図体なら、さぞかし魔石もデカいだろう。

 オーブの代わりにはどうか分からないが、「こんな事もあろうかと……」的な誤魔化し用にはなるだろうさ。


「了解。ただ、今のままじゃ無理っぽい。解除申請通る?」


『貴方の体を考えたらってことで、いつも通りの三分までの限定解除はOKよ』


「なら、やりますか」


 【ブラック聖騎士パラディンモード】は、装甲の形成や移動、通信関連は美夜の魔力を使っているが、攻撃や魔法による防御はオレの魔力を使っている。


 なので攻撃力を上げるには、オレ自身の魔力出力を上げないといけない。

 ただその場合、オレの体がその出力にどれだけ耐えられるか……なんだよ。


 でも、もうそこまで段取りが出来ているのなら仕方が無い。

 諦めて地竜を見下ろす位置まで上昇する。


「こちらはいつでも。カウントは任せる」


『OKいくわよ。リミッター六十%まで限定解除承認。カウント、オペレーターに引き継ぎます』


『引き継ぎます。以降は過剰魔力で通話不能になるから、気をつけてよ!

 十秒前、八、七、六、五、四、三、解除スタート!』


「美夜、空戦モードチェンジ」


「ウイング起動します」


 落ち着いた美夜の声と同時に、乗っていたバイクが不定形なスライムの様に形を崩し、スーツに吸収された瞬間、オレの背中に漆黒の翼が広がった。


 漆黒って……毎度思うが聖騎士ってより、見た目は完全に堕天使だろ、これ。

 まあ、かっこいいからいいけど~等と考えていたら、


「私は既にマスターに墜ちていますから」  

 と美夜の声。


「何言ってんだよ。時間も無いし、行くぞ!」


 軽く右手首を振ると、スーツが伸びて漆黒のロングソードに変わる。

 それを握り締めて、オレは地竜へと急降下した。


 その様子に地竜も危険を感じたのか、はたまたこれまでの鬱憤を晴らそうと思ったのか。


 巨大な口を広げたかと思えば背中が青白く光り、高熱のブレスを吐き出した。

 火炎放射というよりも勢いがある、ガスバーナーの巨大版といった感じだな。

 しかも太い!


 崩落お構いなしの容赦ない一撃を、旋回して回避。巨体の右側に回り込んだ。


「アイシクル・バンカー!」


 左手を掲げると、その上に冷気が集まり全長三メートルの巨大な円錐形の氷を作る。そして、それを投擲するかのように撃ち出す。

 地竜が立ち上がり、城壁をも打ち抜くそれを前肢で弾き飛ばす。

 が、これは想定内。


 氷の影に隠れて、オレは一気に近づく……が、読まれていたか。背中の発光している!


 考えるよりも先に体が勝手に左へ急旋回すると、先程までオレがいた場所に、上空から極太のブレスが放たれた。


「流石は美夜! サンキュー!」


「いえいえ、マスターのサポートが私の使命ですから。使命というよりも、マスターを包み込む私は、今まさに一心同体。

 でも時には私が包まれたい……いえしかし、私でマスターを包み込み、熱く滾るマスターの物を放出していただくのもまた良きかな」


「何の話だよ!」


「魔力ですけどナニか?」


 そんな素っ気ない声を聞きながら上昇。


「ナニじゃねーよ! ってかこの世界の原型はエロゲじゃないっつうの!」


「マスターのこの三年のお陰で、既にシナリオ開始前の設定はかなり変更されていると思いますが?」


「だとしても、エロゲにはならん。というか、いきなりしゃべり出したな」


「万が一にも、このような会話を他人に聞かれる訳にはいきませんので」


「まあそうだけど、……このような会話っていう自覚はあるのな」


「私の品位が下がりますので」


「オレはいいのかよ」


「マスターには私がおりますので、見棄てられても大丈夫です。

 あっグランドマスターも大丈夫だそうです」


「あっちにはしっかり聴かれてるな!」


「他人ではなく、身内ですからだそうです」


「まあ、大事な義姉ねえさんだけど!」


 ブレスを吐き終えた地竜の首元を目指す。そして、


「そんなわけで、義姉さんのためならエンヤコラってことで、これで終わりだ!」


 ロングソードを両手で持ち、地竜の首と擦れ違う。


 数秒後、その首が静かに落下していった。

 続いて巨体がゆっくりと倒れていく。


「いやー、やっぱり美夜の切れ味は流石だわ」


「お褒めにあずかり光栄です」


「さて、取る物取って帰るか」


 考えてみたら、本来の任務が全然終わってねーよ。


 リミッターが解除されている間に解体までやらないと、どれだけ時間がかかるか判らない。

 地上に降りると、横たわる巨体の腹をザックリと切り開いた。


 さて、地竜の魔石ってのは、何処にあるのかね。

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