第2話:今日という日
首都バビロンにて、現バビロニア艦長兼首脳のヘクター・バビロニアが昨日の小惑星事件に関した情報を公にした。全バビロニアに同時配信された内容は衝撃的なものだった。それは絶望の渦へと引き込む言葉…
『バビロニアの住民、私は諸君らに伝えなければならない事がある。昨日の事件はもう広まっているだろう、そのことで諸君らには多大なる不安と心配をかけたことを、ここに謝罪する。今から話す事柄は決して希望の類ではない、再び諸君らを絶望の深淵へ落とすことにあるだろう』
ヘクターは俯き言葉を詰まらせた。やがて顔を上げ続けた。
『だが心して聞いてほしい、この事実は隠しておくには重大すぎた。昨日の小惑星は… 先行していた巨大人工惑星型母艦エデン二番艦ローマの残骸だと判明した。今朝派遣した調査隊によれば生存者は2名、ローマ艦長の愛娘コルネリア・ローマとその近衛騎士だと判明した。コルネリア氏が齎した情報は以下のとおりだ』
彼は後ろにいた部下に合図を送り、背後のスクリーンに何かを映した。そこには惑星の写真と地表にある人工物の写真だった。
『ローマはガンボットの母星を発見した、仮にガンボット・プライムと名付ける。調査隊によって弱点が判明した。総力戦を仕掛けたが抵抗に遭い、ローマは爆散した』
僕はちょうどこの放送を学食で聴いていた。そこにいた学生はみんな手を止めテレビに釘付けだった。
『この情報は我らにとっては絶望に近いだろう。ガンボットの戦力は、ローマの軍力を上回っていた事になる、そして我らは彼らの半分の軍力にも満たない。だがどうか!どうか顔を上げてほしい!前を見てほしい!例えこのデータ通りだとしても!我々はローマの犠牲を無駄にしてはならない!彼らの託した情報と信念は、我々が受け継ぐのだ!』
学生の中には涙する者もいた、だがじっと、黙ってヘクターの言葉に耳を傾けた。
『我々はこれより、ガンボット・プライムへと赴く!これよりは戦時下だ!十年の年月をかけて軍艦を新造し、翔騎兵を育成し、来たる決戦の日に備えよ!』
その言葉に共鳴するかのように、学生は雄叫びをあげ、士気を上げた。十年で今の戦力の2倍以上にできるのか?たった十年だぞ?とても正気とは思えない。そう心の中では思うが、口には出せない空気感だった。
この放送を聴いた帰り道、自宅の前に見慣れない黒塗りの高級車が停まっていた。周りには黒服のいかにもボディーガードが数人警戒体制で立っていて、僕をみた瞬間、車の中にいた誰かに声をかけた。この時点で僕はもう察しがついていた。車から出てきたのは、ヘクター・バビロニアだった。
「久しぶりだな。すこし、背が伸びたか?」
「お世辞はいい。あんたから顔出すなんて、どういう風の吹き回し?」
「はは、私も嫌われたものだね」
そう苦笑いした顔をふと僕の家に向けた。
「イミーネは… 母さんはいないのか?」
イミーネ・カナベルト、僕の母の名だ。離婚した時に旧姓に戻した。
「母さんは夜遅くまで仕事だよ」
嫌味たっぷりに言ってやった。僕らを捨てた男に対しては生ぬるいぐらいだ。そんなこともお構いなくに、ヘクターは続けた。
「ちょうどいい、ルーだけに話しておきたい事があるんだ。母さんに言えば殺されるかもだからな」
「なんだよ」
「近々、バビロン郊外にある家に、訳あって二人の女性が住むことになったんだ。あの広い家だ、二人だけでは勿体無いだろうと言うことでルーをそこに住まわせてみようかな、とね」
僕の顔を伺うようにチラチラと見ながら話した。
「どうせそんなのは建前で、僕を時期艦長にしたいだけだろう?見え見えなんだよ」
「まぁそれも半分あるが… 実は言うとその一人の要望でな… ルーが私の息子だと知ったら是非とも一緒に、とね。どうだ?頼まれてくれないか?」
「まさか、あのお姫様じゃないだろうな?僕に戦略結婚でもさせたいんだろうが、無理だな」
「政略結婚… それもいいな」
僕の攻撃的な言葉に一切気にせず、息子との久しぶりの会話に楽しさを覚えていた。
「ルーの意思を尊重したいが、ここは私のメンツを立ててくれないか?」
バビロン郊外にある家というと、立派な屋敷で滅多な事がない限り話すことはないだろう、とも思った。僕は僕のこと、彼女は彼女のことだけしてればいい。少し家を離れるのは辛いけど、ヘクターに付け入る隙間ができた。
「じゃあ交換条件だ。二年後の卒業、僕を必ず正規翔機隊に入れろ。それなら僕は快くそのお姫様と住もうじゃないか」
僕はどうせ卒業してもヘクターの計らいで正規翔機兵になれない。だったらこのチャンスを逃すわけにはいかない、必ず翔機乗りになってやる。
「分かった。それだけか?」
「え?あ、うん」
あっさりと首を縦に振りやがった。
こうして僕はその日のうちに屋敷に移ることになった。母さんには翔機兵訓練の一環として寮に住まなければならないということになったらしい。さすがヘクターの力だ、事実改善なんて造作もないということだ。
ヘクターの運転手に連れられた屋敷は綺麗に整っていて、とても昨日まで人の手が届いていなかった様には見えない。
「着きました。門手前で待ってらっしゃるそこの方が貴方の専属騎士と、お父様よりお聞きしております」
運転手がそういうと外に出て僕のドアを開けてくれた。荷物は殆ど搬入済みだ。僕は手ぶらで向かった。
「ルーズ様ですね」
門に立っていた黒服に男が話しかけてきた。
「私は貴方様専属騎士のユーゴ・コンティです」
「よろしくお願いします」
「敬語はよしてください。あくまで上司と部下の関係なのですから」
僕たちは屋敷の中へ足を踏み入れた。
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