鉄星のバビロニア
不細工マスク
第1話:鉄星のバビロニア
150年前、地球外生命体による侵攻を受けた地球は、人類総戦力を持って立ち向かった。だが、その奮闘も虚しく、太陽系は消滅し、居場所を失った人類は12の巨大人工惑星型母艦エデンを作り、宇宙を彷徨った。人類を存続させるため、地球外生命体と対峙するために。
「と、これが皆の知る歴史だ」
歴史の先生が液晶スクリーンを指しながら解説した。そんな授業も僕には退屈で仕方なかった。
「せんせーい!なんでバビロニアの時代設定は22世紀前期なんですか?」
お調子者のヒューが腕を高々と掲げた。
「それはだな、初代艦長兼首脳のアルマス・バビロニアが最も平和で健やかに育てる環境がこの時代にあったと考えたからだ」
そんな理由で最新技術を最深部に独占されたらたまったもんじゃないな。
昼を伝えるチャイムが鳴り、午前の授業は終わった。学校の中庭に座り、天を眺めながら弁当を食べた。ここに映っている青空は本物じゃない。朝という概念も存在しちゃいない。ただ、地球ではそうだったから、ここでもそうであるべきと偽りの空と偽りの昼夜を作り出した。
「ルー!まぁたこんな所で食べてるの?」
「イエスタ。別にいいだろ?空を眺めるのが好きなんだ」
幼馴染のイエスタ・バーンデッドだ。昔から親が知り合い同士でよく遊んだ。
「えー?でも前は偽りの空なんか嫌いだぁ、って言ってなかった」
「ここに映ってる空は嫌いだ。でもその向こうにある本物の空は好きだ」
「だから翔機兵科に入ったのね」
「お前もだろ?」
翔機とは人型機械兵器、昔はこれに乗って人類は地球外生命体と戦っていた。僕は翔機に乗って、本物の空を自由に駆け巡りたい、その一心で中央兵学学校へ入った。
学校は少し盛り上がった丘の上に建っている、この中庭からは麓の街全体が見えるし、空にも近い場所だ。僕とイエスタは傾斜になってるところに座っていた。そんな時、星内放送が流れた。
「小惑星が航路上に出現、翔機兵科の皆さんは急いで格納庫へ集合してください。繰り返します…」
「また小惑星かよ、ここん所多すぎじゃないか?」
直近1ヶ月での小惑星警報は19回だ。
「まーいいじゃん?翔機にも乗れるし、宇宙にも上がれるし」
僕らは急いで格納庫へ向かった。学校の裏にある作業用翔機格納庫へは3分もかからずに着いた。宇宙服に着替え、翔機に乗り込んだ。
作業用翔機スラッヴは全長10mもない小型で、操縦系も簡略化されており、訓練はそこまでいらない。
この星の天井を支える支柱には翔機射出カタパルトが内蔵されており、そこから系8機の翔機が同時に射出される。
「今回は直径1kmの小さい小惑星だ、2人1組で動いて破壊しろ。それと、金属類は回収するように」
カタパルトに入り、カウントダウンされると機体は大きく上昇し、とてつもないGが全身にかかる。それから解放されると、無重力空間に入ったのを実感した。モニターにはサッカーボールと同じ形の枠組みが映っていた。
『04!輸送機に乗り遅れるな!』
「は、はい!」
機体コード04は僕だ。少し見惚れていて遅れてしまった。輸送機に捕まり、小惑星まで飛んでいった。
ある程度まで近づいた所で輸送機から手を離し、スラスターで小惑星へ向かった。
『ルーズ、どうやら俺らが同じ組みたいだな』
「お、ショコラさん。よろしくお願いします」
ショコラ・マッケンガーは2年生で翔機兵科ではお世話になってる。非常に面倒見の良い先輩で、みんなから好かれてる。
『いつも通り気楽に行こう』
「そうですね、先輩がいると頼りになります」
『ハハ、照れるなぁ』
そうこう言っているうちに小惑星に着いた。小惑星に足をついて、アンカーを放ち固定した。スキャンによると金属の塊らしい。ただ気掛かりなのはその密度だ。所々空洞がある。それになんだかこの表面の感じ…
『ルーズ!そこを離れろお!』
そう怒鳴るショコラさんは僕の機体を押し倒した。尻餅ついた拍子にコックピットが激しく揺れたが、幸いアンカーは外れなかった。何事かとモニターで確認すると、ショコラさんの機体が吹き飛ばされるのが見えた。一瞬の出来事に理解できずにいると、解体隊の隊長のレミリア・スギハラさんの怒号が聞こえた。
『総員散開!ガンボットの出現を確認!』
「ガンボット!?」
ガンボットとは地球外生命体、機械と生体の複合生物。特性上、機械であれば何にでも憑依できる。
「ショコラさん!?大丈夫ですか!」
『カナベルト!マッケンジーに近づくな!正規兵が来るまで待つんだ!』
僕らが動けずにいると、意外にもガンボットは動かずにいた。よく見るとやつの体はボロボロで、欠損が激しい。ここに来る前に戦闘があったのか?
『どけええええ!!』
スピーカーから流れる知らない人の声、それと共に後ろからすごい勢いで突進していく白い機体、翔機だ。しかもあれは見たことない形状の。
その翔機は一才の迷いもなくガンボットへ向かった。自身の命の危険を察知したのか、ガンボットも咄嗟に戦闘体制に入り、翔機の一撃を弾いた。翔機は武装も剣一本と心許ない、多分このガンボットと戦闘をしていたのだろう。
『少年!君の翔機に座標を送った、そこへ向かって姫を退避させてくれ!』
その翔機乗りの言う通り僕のマップに座標が追加された。彼女が戦っている間に、僕しかできないことをしなくちゃならない。アンカーを急いで外し向かった。やはり思った通りだ、地表が平らすぎる。まるで人工物… 考えたくないが、状況証拠がそれを証明してしまう。座標につくと、そこにはシェルターの入り口があった。中はとても暗く、そしてとても人が生存できるような環境ではなかった。スキャン結果がモニターに映し出された、右側に何かがある。近づいてライトを照らすと、そこには二つの冬眠ポッドがあった。一つは空いていて、中から液体が溢れていた。もう片方はまだ閉じたままだ。中には可愛らしい白髪の少女が眠っていた、まるで白雪姫のように美しい彼女を僕は冬眠ポッドごと抱えた。
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