第3話:ローマの姫

重い玄関扉を開けると、正面に二階へと続く大階段、左右には通路がある。そして奥からメイドがぞろぞろと出てきて出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、ご主人様」


総勢6名でこの屋敷を回してるのか。ややあってメイドの一人が一歩前に出てお辞儀をした。

「私はここのメイド長、フェリン・オスターです。何かご用があればなんでもお申しください」


「あ、ええと、僕の部屋って…」


僕の言葉を遮るように誰かの、少女の声が右廊下から僕の名前を呼ぶ聞こえた。走ってくる彼女の顔を見てようやく分かった、お姫様だ。

「あなたがルーズさんですね!」


可憐なドレスを見に纏い、お嬢様風のお辞儀をした。

「申し遅れました、わたくしはコルネリア・アルテ・ローマです。昨日は助けて下さったと聞きました、感謝してもしきれません」


「いえ、僕はたまたまそこに居合わせただけです」


「それでも、あなたに助けていただいた事実は揺るぎません」


彼女は背こそ低いが、しっかりとした姿勢で語る。後になって気づいたが、彼女の後ろには凛とした女性が立っていた。

「ルーズ殿、昨日の非礼についてお詫び申し上げます。まさかあなた様があの場にいるだなんて…」


「いいんですよ、僕は全然気にしていないし、第一僕にそんな贅沢な階級なんてないですよ。ただ、現首脳の息子だった者ってだけです」


暗くなってきたところでメイド長のフェリンさんが僕らの間に割って入った。

「そろそろご夕飯のお時間です。お先にダイニングルームへ向かいましょう」


そう言うと彼女は先導した。左の通路を進んで2番目の扉がダイニングルームだった。作りは広々としており、壁には絵画や食器を展示してある棚が数個置いてあった。天井からはシャングリラが吊るされており、時代で言うとルネッサンスの貴族階級になった気分だ。

「おしゃれですわね」


コルネリアの顔を見るとどこか懐かしむような表情をしていた。そうか、彼女の元いた場所はこういった感じだったのか。席に着くと、ユーゴと女騎士は後ろで立ったままだった。それを見たコルネリアが呆れた様子で言った。

「メイリン、わたくしは前にも言いましたが、お食事はみんな揃って行なうもの。今のわたくしに残された家族はあなただけでしてよ?」


「そ、そうでした!すみません、お嬢様!」


故郷も家族も失ったコルネリアに残された最後の家族とも呼べる人、メイリンか。彼女は腕の立つ翔機兵なのだろうか?

僕も彼女を見習って、ユーゴと打ち解けてみよう。

「ユーゴ、君も座ってくれ。僕には、その、貴族風とか、そういうのわからないから、友人として君と接したいんだ」


「ですが、私があなたの騎士、行きすぎた行為は…」


「じゃあ君の主人である僕が命令する、席をとって夕飯を食べよう」


そう言うとユーゴは少し困った顔をしたのち、諦めがついたのか少し口角を上げ、席に座った。

手押し車で運ばれてきたご馳走はそれも目を引くものだった。全て噂だけ聞いたことあるような贅沢なものがたくさん並べられてた。

僕らは初めてあったにも関わらず、まるで旧知の中のように話は絶えなかった。

食卓に並べられた物はほとんど平らげた頃にはもう20時を回っていた。各々のお風呂を順番で入った。なぜかユーゴは背中を流すと言って聞かず無理やり入ってきた。

22時には部屋でリラックスしていた。今日の課題を済ませて眠気が来るまで趣味である軍艦作りに勤しんでいた。

だがいつまで経っても眠気は来ず、少し夜風に当たろうと窓を開けて身を乗り出した。

「綺麗だ…」


宇宙そらを見て一人呟く。無数の星とうっすらと見える中心街の光。夜はやはり好きだ。

空に見惚れていると、上の階の窓が開いた。確かあそこはコルネリアの部屋だったなと思い、眺めていると、ひょこっとコルネリアが顔を覗かした。その瞬間目が合った。

「あら、こんばんわ、ルーズさん」


「あ、こんばんわ」


「ふふっ、ルーズさんもまた寝付けないのかしら?」


「え?あー、少しね」


彼女は僕より年下だが、言葉使いはそれを感じさせない。長い白銀の髪とピンク色の寝巻き姿はどこか幼さを感じさせる。

宇宙そら… お好きなんですか?」


僕の目線で気づいたのか、唐突に聞いてきた。

「うん、大好きだ」


「わたくしも好きです。昔、お父様に無理言って外縁リングの庭園に連れて行ってもらったのです」


外縁リングとはこの鉄の星を動かすブースターが並んでいる帯。ブースターの反対側は上級階級専用の庭園という噂もある。バビロニアを取り囲うように存在する庭園を一目見てみたいと常々思っていた。

「どうだった!?僕も行ってみたいと思ってたんだ!」


「とても綺麗でしたよ。まるで宇宙を漂っているかのような感覚で… そこから見るローマも、いつもの比ではないぐらいに輝いていて…」


そう嬉々として語る彼女の目には涙が浮かんでいた。過去の記憶が涙腺を刺激したのだろう。

「ごめん、余計なこと聞いて」


「大丈夫です。それではお先に寝ます。おやすみなさい」


そう言って彼女は颯爽と身を引っ込め窓を閉じた。

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鉄星のバビロニア 不細工マスク @Akai_Riko

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