数

　あの夢を見たのは、これで9回目だった。

　荒唐無稽な内容であったとしても、9回も同じ夢を見るのは、ちょっと普通じゃない。何らかの意味があると思った方が良いのかもしれない。

　不安や恐れといった感情が夢に現れるのは聞いたことがある。自覚のない身体の不調なども夢に影響あるようだ。

　夢の中で俺は、いつも膨大な数字に追いかけられていた。逃げ切ることはできず、捕まる寸前で目が覚める。

　ふと考えてみれば、数というものは結構恐いものじゃないだろうか？

　大昔の人は3までしか数えなかったという。それで十分だったのもあるだろうが、プラスして大きな数に対する恐怖もあったのではないだろうか。

　大群。

　虫なんかが代表的だろう。蟻、イナゴ。最近じゃカメムシなんかも話題に上がる。

　そんな大規模なものじゃなくてもいい。大量発生した毛虫、卵から孵化したばかりの蜘蛛・カマキリ。生理的な嫌悪感と共にえもいわれぬ恐怖を感じる。

　虫は元々気持ち悪いという意見もあるだろうが、鳥だって集まると恐い。有名なヒッチコックの映画とまでは言わなくても、カラスの群れやムクドリの群れ。集団で移動する姿や、騒音と言えるような鳴き声を聞いていると、襲ってくることはないと思っていてもやっぱり恐い。

　人を襲う可能性のあるものになれば、言わずもがな。サメの群れ？　蛇の群れ？　野犬の群れ？　命を諦める光景だ。

　ひとつひとつは問題なくても、集まるとそれは恐怖になりうるのだ。

　待てよ？　よく考えてみれば、集まらなくても恐いのではないだろうか？

　4や9や13。数字には不吉とされて忌避されるものがある。それを過度に恐れてしまう強迫性障害があるという話も聞いたことがある。

　不吉なだけじゃない。「五億年ボタン」みたいな話はどうだ？　天文学的な数字は、時に人知を超えたものをもたらす。想像することすらできない恐怖だ。

　何故だ？　何故俺はそんな夢ばかりを見る。

　予知夢なのだろうか？

　避けられない何かが、これから起きようというのか？

　恐ろしい……本当に恐ろしい……。気が触れてしまいそうだ。

　誰か！　誰か助けてくれ！！！

「数学の時間に毎回居眠りしているからじゃね？　テスト明日だぞ」

　友人の言葉に、俺は現実逃避をやめた。