第2話 ダンジョンへ
基本的にダンジョンは駅の入り口にできたり、店自体がダンジョンになったりする。人の出入りが多い場所にできやすい。僕が向かっている場所は総合商業施設にできたC級霧雨ダンジョンだ。
ダンジョンの場所を知らなくても簡単に探すことができる。ダンジョンは魔力を生んでいるから、魔素が濃い方向に進めば大体ダンジョンがあるらしい。僕はこのダンジョンしか知らないから、あまりわからないけど。
空気が重くなってきた。胸の奥にじわりと圧がかかる。建物の間を走って移動していて正確な場所がわからないが、ダンジョンに近づいてきたのがわかる。
たびたび、魔獣を見かける。ダンジョン外の魔獣は群れを作らない。だから、見つかってもすぐ逃げ出せるし、無視して進むことも可能だ。
商業施設が見えてきた。何度も見慣れたナオンと書かれた英文字の看板が目に入る。
商業施設の外壁はかつての賑やかさを失い、黒いツタのような異形の影が這いずり回っている。自動ドアはすでに機能していない。開き切った自動ドアの隙間からは暗闇が続いている。
「ふう」
家から止まらずに走ってきたのは初めてだ。深く息を吸い、暗闇に飛び込んだ。
C級霧雨ダンジョンはフィールド型で空間が歪んでおり、中はかなり広い空間になっている。商業施設の中がダンジョンで、元の構造がそのままダンジョンと化している。
「お」
さっそく、食料を見つけた。きゅうりのような見た目の果物だ。あまり味はないが、よく地面から生えた植物から見つけることができる。ダンジョン内ではツタのような植物が這い回っており、建物の中のはずなのに植物が生えている。
ラッキーだ。味のしないダンジョンフードを集める人は少ないが、それでもダンジョン内の食べ物を食べると体が強くなるとか考えてる人もいる。
「幸先いいな。めっちゃラッキーだ」
両親がいなくなり、居場所も消えた。そのことは頭の隅に追いやりつつ、独り言を言う。
「フードコートとかでごはんを探さなくてよかった。前食べた時はお腹壊したし」
フードコートや百均とかの店もダンジョン化しており、中を歩いていれば見つけることができる。一回、店に残っていた鯖味噌の缶詰を開けて食べたが、完全にお腹を壊した。
「あの場所に行くか」
あの場所とは、いつもの瞑想場所だ。
「今日はモンスターが少ないし、早めにいこう」
ダンジョンの中心から離れるごとに植物の割合が濃くなっていく。入口から入って外側に近づくと、外に出れそうだが全然そんなことはない。よくわからないが、森が広がっている。
外側には強い魔獣がいない。狼とかがいるが、少なくとも二mを超える狼はこの辺りには来ない。それでも、油断は良くない。ゆっくりと呼吸をして、静かに歩を進めた。
しばらくして、瞑想場所が見えてきた。
瞑想場所――それは、森の奥にある崩れた石造りの建物跡。壁は全壊し、かろうじて建物があったことがわかるが、そこだけはモンスターの気配がほとんどない。
「よっと」
早速、腰を下ろして瞑想をするポーズを取る。これは前にダンチューブで瞑想の仕方を検索したときに出てきたやり方だ。効果はあるのかないのか、わからない。まあ、かっこいいからこのポーズをとりあえず真似している。胡坐をかいて座り、集中する。
深く息を吸い、瞑想を始める。体の中の魔素を認識しつつ、もう一つのなにかを探る。
ダンジョンでの瞑想は一般的とは言えないが、ある程度は効果のある修行方法だ、とされている。ダンチューブで検索したときは、いろいろな配信者がやっていたし、体のキレが良くなり、スキルがよりスムーズに発動できるようになるらしい。
実際に、なんとなくだけど強くなっている感じはある。魔蝕病によるものなのか、簡単に魔素を認識することができた。そして、このもう一つのなにかが存在することがわかっている。このもう一つの方は、誰も言及していなかった力だ。
このどちらの力も外から取り込める。ダンジョンに存在する流れから汲み取る。魔素とは相反する流れ、それがこの瞑想場所で感じ取れる。
「はぁっー。疲れる」
魔素は体に取り込みやすい。まるで、呼吸をするように自然と馴染む。だが、もう一つの流れ。この正体不明のエネルギーは、魔素とは違う性質を持っている。
「あ」
魔素とは違う性質、僕がこの力を使ってできるのは、物体に対する付与、そして、身体能力の強化だ。瞑想で研ぎ澄まされた感覚が、モンスターの侵入を感知した。
「今日はモンスター少なかったのに」
急いで立ち上がり、体に取り込むように力を練りこむ。
いる。
足音はほとんどない。それでも、確かに見える。前方に木々の間を滑るように走る影。鋭い爪が土を抉り、低く喉を鳴らす音。
狼だ。
一匹。今日襲い掛かってきた個体とは違う。大きさも小さい。
黒い毛並みが揺れ、光を反射して鈍く光る。
身体能力の強化。全身に力が張る。
「はぁっ」
身体能力の強化の反動か、緊張によるものなのか、声がこぼれる。筋肉が熱を持ち、血液が沸騰するように駆け巡る。視界が一瞬で鮮明になり、狼の動きを把握する。
狼が飛び掛かり、左に回避する。
「いッ!」
爪が頬をかすめた。
足元に転がっていた石を掴み、指先に力を込める。破裂の付与だ。正体不明のエネルギーを消費して付与を行う。
それを投げる。
狼の顔面に向かって一直線に飛ぶ石。狙い通り、鼻面に直撃した瞬間。
破裂する衝撃音とともに、粉塵が一瞬で広がった。
「ガウッ!?」
狼が悲鳴を上げ、動きを止める。チャンスだ。今のうち殺る。
「死ね」
地面を蹴り、一気に狼との距離を詰める。狼の喉元に向かって拳を振りかぶる。強化した腕が喉を砕く。
骨の砕ける感触が、拳越しに伝わってくる。喉元が潰れ、狼が激しく痙攣している。
「やったか?」
絶対言ってはいけないセリフを言う。無意識に言ってしまった。だが、狼の体は痙攣し、泥の上で小刻みに震えている。喉を破壊されて戦えるはずがない。
僕はそう思っていた。
「なっ!」
「グルル……!」
狼の目が、鋭く光った。信じられない。喉を潰されたはずなのに、まだ動けるのか!? 無敵か!?
狼が立ち上がる。口から血を流しながらも、その牙をむき出しにし、低く唸った。
狼の周囲に魔素が集まる。
「魔法、か?」
周囲の空気が不穏に揺れた。
風が渦巻き、空間を切り裂く音が響く。
風の刃だ。
瞬時に察知し、跳ぶはずだった。
だが、体が思うように動かない。うまく力を練ることができない。 焦る間にも、風刃は猛スピードで迫る。 跳ぶ。 だが、力が足りない。
「うぐっ」
足に裂く衝撃が走る。失敗だ。跳びきれなかった。地面に転がる。
「……!」
背後で、木々が真っ二つになっていた。
もう一回あれをくらったら終わる。だから、魔法を発動される前に。一撃で殺す。
地面を蹴る。視界がブレるほどの加速。
狼が再び風を集めようとする。
「遅ェ!」
拳を振りかぶり、力を込める。確実に。拳が狼の側頭部を捉える。
骨が砕ける感触。狼の体がその場で崩れ落ちた。今度こそ、完全に絶命した。
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