現代ダンジョンがはびこる世界で僕だけが気をつかう
@oukaein
第1話 始まり
僕は伏見魔優。友達、親からはユウと呼ばれていた。今では名前を呼んでくれる人はいなくなってしまった。僕が住む町は一年前のダンジョン出現に伴い、二級危険区域に指定されている。ちょっと前までは高校に一年生として通学していた。
ごめんね、そう書いてあった母親の書き置きのメモ帳を発見した。落胆や、憤怒、そして、虚無感が胸を締め付ける。文字を指先でなぞった。インクが乾いて久しいのに、それでも僕は残った温もりを探していた。
「……何に対しての『ごめんね』なんだよ」
呟いた声は、誰に届くでもなく、静まり返った部屋の中に消えていく。
――ガシャァンッ!!
鋭い音とともに、窓ガラスが砕け散った。
「ッ……!」
びっくりして肩をすくめる。破片が床に散らばり、カーテンが破れたことで光が差し込む。
何が――
混乱する頭で考えるより早く、視線は窓へ向かった。そこには、転がる石。固く、重そうなそれは、誰かが狙って投げ込んだものだった。そして、外から聞こえる怒声。
「出てこいよ!」
「てめぇ、まだ生きてたのか!」
ちゃんと当てろよな。そんな軽い調子の声が聞こえた直後、ドンッ! と玄関が蹴りつけられた。一撃で玄関が破壊される。ずかずかと土足で踏み込む音が近づいて来た。
彼らは元同級生たちだ。彼らが襲い掛かってくる理由は分かっている。それは僕が――
「魔蝕野郎!」
ダンジョン型魔蝕病。それはこの世界にダンジョンが突如とできて、魔法とともに出現してきた。ダンジョンの魔力と反応することで異形に至る病。ダンジョンから離れても急激に症状が進行してしまう。完治不可、遺伝し、最後にはモンスターに変化する。あの日に、父親と共にこの病気が診断された。
ダンジョンは魔力やモンスターを出して周辺地域を支配する。作動する電子機器にも魔力は影響するため、魔力の浸食対策をした機器は高価だ。つまり、電話で助けを呼んだり、配信して彼らの行為を晒すこともできない。
残されたメモ帳を服の内側にギュッとしまいつつ、装備を確認した。こうやって突然襲い掛かってくるモンスターや人がいるかもしれないから、家にいてもある程度の武装をすることにしていた。
この場にいても、彼らのサンドバッグ兼モンスター素材になるだけだ。玄関とは反対側の庭まで走り、彼らとは正反対の方向に進んだ。
「逃げる気かよ!」
反射的に体をひねる。視界の端、振り下ろされたバールの先端が、床を抉っていた。
玄関を一撃で粉砕した力が頭をつぶそうとしていた。彼らの力はダンジョンで身に着けたものだろう。ダンジョンではモンスターを殺すことで経験値を得たり、スキルを手に入れることができる。
「チッ、外したか」
ニヤつく声。バールを握る手が再び振りかぶろうとしている。
「二度目はねぇ」
次の攻撃が来る前に、庭に飛び出した。庭から他の住宅の間を縫って移動すれば逃げることもできるかもしれない。
その瞬間――
ガァァァァアアアッ!!!
獣の咆哮が、空気を裂く。
四足歩行。灰色の毛皮は硬質化し、肩幅は異様に広い。牙は太く、大きな体躯を持つ狼型の魔獣。
「白狼だ!」
彼らは警戒し、家の中から様子をうかがっている。
屋根の上から鋭い眼光を放っていた魔獣は、咆哮を終え、わずかに身を低くした。
次の瞬間には家が半壊していた。屋根から飛び降り、爪を繰り出している。庭の中心で棒立ちの僕など目もくれず、魔獣は彼らを攻撃し始めた。
これはチャンスだ。なぜ、彼らを優先して攻撃したのかわからないが、逃げられる機会が生まれた。
膝に力を込め、駆け出した。背後では怒号と恐怖が入り混じる。振り返らずに、ただひたすら足を動かす。
行き先はダンジョンだ。今日も僕はダンジョンに潜る。生きるために。
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