第48話 家族
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「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー、ハッピーバースデイ ディア おかあさーん。ハッピバースデイトゥーユー・・・」
どうやら不目根田町の通行止めは、ダンジョンがクリアされ結界が解かれたのを見て、その日のうちに解除されたようだ。
タクシードライバーと母親は不目根田町までやってきており、渋滞を見て引き返そうとしたところ、ちょうど交通規制が解除され、街へ入れることになったという。
母親はタクシードライバーにお礼を言い、別れを告げると自宅があるはずの場所へ戻ってきてこのことをアラタとミナに説明した。
その後、すっかり更地になってしまった自宅があるはずの土地を見て今度はアラタとミナに母親は説明を求める。
「ダンジョン化現象で自宅がなくなっちゃったら保険って降りるのかなあ」
「無理だろ。これからそういう保険とか出てきそうだけど。」
アラタとミナと母親は家をなくしたが近くの──食堂で働くあのおじさんの家に泊まらせてもらえることになった。
おじさんは妻と猫二匹と暮らしており、大人になって出ていってしまった子供の部屋でアラタたちは寝泊まりすることになった。
夕飯の時間、先ほどまでいた兄の姿が見えない。
「あれ・・・お兄ちゃんどこいったんだろ」
「ミナ、アラタのことをお兄ちゃんなんて呼ぶのはよしなさい。意味がわかんないわ。あなたの方が数秒早く生まれたのよ」
おじさん夫婦は疲れ切っていたようですぐにご飯を食べて寝てしまった。
今はミナと母親だけがおじさんのリビングで台所と食料を使わせてもらって夕飯の準備をしている。
ミナが料理を机に並べようとした頃、ガラリと玄関が開き、アラタが「ただいまー」と言って入ってくるのが聞こえる。
「ちょっともう!どこいってたの!サボらないでアラタも夕飯の準備手伝って──」
ミナがそう言いながら玄関の方へ行くと、両手に箱を抱えたアラタの姿があった。
「ごめんごめん。ちょっとひとっ飛びして買ってきてたんだ。
『ゲーム化』の影響で閉まってる店が多くて随分遠くまでいっちゃったよ。
でもまあ無事にゲットできたしよかったよかった。レベル100て便利だな。」
アラタが抱えていた箱をミナに渡す。
「手洗うからそれ運んどいてよ」
「ちょ──何これ」
「ケーキだよケーキ。母さんの誕生日だろ?」
そういうとアラタはミナの前を通り過ぎて手を洗いにいってしまった。
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その夜は久しぶりに3人揃って食べた夕食だった。本当に久しぶりでもう何日ぶりなのか詳しいことは分からない。
不思議な気分だった。
「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー、ハッピーバースデイ ディア おかあさーん。ハッピバースデイトゥーユー・・・」
ケーキはぐちゃぐちゃになってしまっていた。アラタは慎重に持ってきたつもりだったが、どうやら圧によるものらしかった。いちごは破裂し、箱にこびりついてしまっている。
「チェ〜せっかく買ってきたのにしまらないな〜」
アラタはそうこぼしていたがミナには違った。
もう一口ぐちゃぐちゃになったケーキを口に頬張る。
久しぶりに美味しと思える食事をしたと、ミナは一人、静かに思うのだった。
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