第13話 ドラゴン討伐ー2

 家を出ると前方に朝日が顔を出し始めているのが見える。


 顔をあげ、明るくなり始めた青空を見るとそこには真っ赤な飛龍の姿があった。


 ゲームに出てきそうなコッテコテのドラゴンだ。


「うて!ミナ!」


 アラタは叫ぶ。


 ミナは魔法の杖の使い方はなんとなくでしか分からない。


 家で少し、魔法を放つ準備をしたくらいだ。


 アラタが使うことができると言っていた「岩の塊を放つ魔法」はまだ一度も使用したことがない。


 だが、やるしかなかった。杖に力をこめ、自分の中にあるエネルギーを杖に移すような感覚でいると杖が光を放ち、前方に魔法陣が現れる。


 言葉で言い表すことのできない感覚に襲われる。


 自分が今放つことのできる魔法が本能的に察知できた。


 ステータスバーで事前に現在放つことのできる魔法は把握しており、岩を放つ魔法も確認済みであったが、そんなものを見なくともミナは岩を撃つ魔法を放つことができただろう。


 それほどまでに感覚で自分の使用できる魔法がわかった。


「ええい!」


 ミナは魔法を放つ。すると魔法陣から大きな岩が現れ、ドラゴンに向けてものすごい速度で放たれた。


 大砲でも発射してるかのようだった。


 しかしドラゴンの動きは意外と早く、放った岩はドラゴンにかすりもせずに青い空へと飛んでいく。


「うっはずれた。」


「もう一発打てるか」


 アラタとミナは顔を上げどこかへ飛びゆくドラゴンを見ながら会話する。


「もう一発──」


 ミナは杖に力を込め、再び岩を放とうとする。が、どうやらその必要はなさそうだった。


 ドラゴンは飛んできた岩に気付いたようで、岩が飛んできた方向へ首をひねる。


 はるか上空にいるドラゴンであったが、ミナはドラゴンと目があったような気がした。


「来るよアラタ!」


 ドラゴンが向きを変えてアラタとミナの方へ勢いよく向かってくる。


「ハハっ血の気の多いやつで助かったな」


「軽口叩いてる場合じゃないでしょ。あとは任せたからね、アラタ!」


「あぁっ」


 ミナは家の開け放たれた玄関の前に立つ。いつでも家の中に逃げ込めるように。


 アラタは力を込めて思いっきり飛び、屋根の上へと移る。


「うわっすごいなレベルが10まで上がっただけであんなに身体能力が上がるんだ・・・」


 ミナはアラタの様子を見て思わず口から言葉をこぼした。

 ドラゴンの咆哮が聞こえる。ミナとアラタはドラゴンの方へ視線を戻す。


「よし!もう十分引きつけた。ミナは作戦通りに逃げてくれ!」


「うんっ」


 ミナは開け放たれた玄関に土足で入り、そのまま家の中を駆け抜けて裏口から家の裏へと出ると今度は右手に曲がって山の茂みの中へと隠れた。


 ドラゴンは家の中にミナを見失い、少し飛ぶ勢いを弱める。


「おりゃああっ」


 ドラゴンがそのまま家の中に突っ込むか、踵を返して飛び去る前にアラタは屋根から思いっきり飛び、ドラゴンへと攻撃を仕掛ける。


 ドラゴンはまだ地面から10数メートルは離れているがアラタの脚力では届くのに十分な高さであった。


 アラタが力を込めると家の屋根はみしりと音をたて、アラタが飛ぶとばきりと音を立てた。


 ───あぁやばいなこれ 修理する必要が出てきてしまった・・・


 アラタは振り返らずとも音によって屋根がどんな状態にあるかなんとなく察するが、意識を切り替え、目の前のドラゴンに集中する。


 ───これさえ倒せばレベルはさらに上がる。それもかなり。まさに鬼に金棒だ!


 アラタは剣に力を込める。







 アラタがリトライしてレベルアップするために戦闘する中、武器にも能力が存在していることに気づいた。


 ステータス画面から武器の詳細を確認することができたのだ。


 ミナの放つことのできる魔法の種類もそこで調べることができる。


 アラタの剣は、「はじまりのつるぎ」という名前でいかにも初期に配布される武器のような名前であった。


 剣には魔法の杖のようにこれといってポンポン打てる特殊な何かがあるというわけではない。が、「奥義」なるものが存在しているようだった。


 MP(マジックポイント)を消費して放つ、いわゆる必殺技だ。


 そこで初めてMPというゲージの意味にアラタは気づく。今までレベルのゲージの下にそれは表示されていたものの、何をしても減ったり増えたりすることがなく、よく分からなかったのだ。


「はじまりのつるぎ」の「奥義」、それは自分の斬撃を威力と範囲を強化した上で数メートル先まで飛ばすというシンプルなものだった。


 だが、今の状況において、その技はぴったりであった。アラタは力を込め、今まで貯めてきた───10レベルの力を斬撃にのせ、ドラゴンの頭部目がけて放つ。


「くらえぇっ」


 ドラゴンの動きは思ったより素早く、飛ばした斬撃は首の根元あたりに着弾した。威力はあったようで、ドラゴンはほぼ垂直に地面に叩きつけられるようにして落下していく。


 そう、叩きつけられるように。



 ───切断できてない!?



 ドラゴンの胴体は頭に比べて大きく、皮膚も分厚かった。だが、それでも思ったより自分の放った斬撃がドラゴンの皮膚をさかず、アラタは焦る。


 ドラゴンはうめき声をあげ、家のまえで土煙をあげていた。アラタはそんなドラゴンを真下に見ながら、弧を描くように地面に落下する。



「っ」



 アラタは着地の方法がわからず、思いっきり足を出して地面に着地した。ジリジリと全身に痛みに近い振動が走ったものの、特に怪我はない。


 ──ははっすげえな10レベって。


 そんなことを心の中で思うのも束の間アラタは後ろのドラゴンの方へ振り向くと現在の状況の深刻さに緊張が走る。

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