第12話 ドラゴン討伐ー1
「・・・なるほどね──で、アラタ、一回死んだの!?」
ミナとアラタは場所を家の中に移し、ミナはこれまでアラタの経験してきたことと、アラタが知っているこの世界で起きている現象についての話を聞いていた。
汗だくになったアラタは家の中に入ると同時に急いでシャワーを浴びている。
すでに準備していたのか脱衣所にはアラタの着替えが置いてあった。そこにいつもきているパジャマではなく、アラタが通っていた中学校の運動着である。
ミナは浴室の前に座り、シャワーを浴びるアラタと扉越しに会話をしていたのだった。
アラタがシャワーを浴び終えると二人はリビングに場所を移し、二人で朝食の準備を始める。
ここまででミナはアラタからアラタが知っている限りのこの世界で起こっている現象と、アラタがこれまで経験したことを聞いていた。
リビングではテレビがついているが会話に邪魔なので音量は極めて小さくしている。
「───つまり、一回死んで、残機を使って蘇ったら、おそらく世界がゲーム化した直後のまで時が戻っていたと・・・」
「ああ。そうだ。」
ミナはとてつもない情報量でまずアラタが嘘をついていることを疑う。
だが、この朝見てきた異様な光景とアラタの真剣な表情からそれが嘘ではないことが
分かった。わかっているが──
「一回死んだって・・・アラタ───その、だいじょうぶなの?」
「あぁ。今のところ問題はない。残機4と書いてあったから後4回は死んでも大丈夫っぽい」
「えぇ・・・」
「それよりミナのスキルを確認させてくれ。」
アラタはミナのスキルを確認する。
自分の──アラタのスキル欄にはリトライの、残機を使って蘇ることのできる能力が記されていた。
これまで集めてきた情報から、このスキル欄は人によって違うものが記されているよことはわかっている。
アラタが教祖に右腕を削がれたのも、教祖が右腕を削ぐことができるなんらかのスキルを持っていたからに違いなかった。
教祖は短い刃で戦っており、「起動」の声を聞くまで全く特殊な攻撃をしてこなかったのがその根拠だ。
アラタのスキルは死んでから初めて効果を発揮するため、スキルを発動する際に「起動」のような何か言葉を発する必要があるのかはまだわからない。
なのでここでミナのスキルを確認することで、よりスキルに関しての情報を補強することができる。
「・・・やはり、俺とは違うな。」
ミナのスキル欄を開くとそこには「空間の凍結」と書かれたスキルが表示されていた。
アラタは自分のスキル欄も表示させ、ミナにみせる。
アラタの欄には「リトライ」と書かれており、その下に詳細が記されていた。
まだ世界が「ゲーム化」してまもない。そろそろ世界でもスキルの存在に気づき、情報が出回ってくるころだろう。
──あとでネットを使うなりして、さらにスキルについて情報を確認しといたほうがいいな。
スキルについてはまだ謎が多い。
人によってそれぞれ違うとして被ることはあるのか、アラタのような時間系のスキルが被った場合どうなるのか、知らなければならないことは山ほどある。
だが、教祖が凶行に及ぶまでの時間は刻一刻と迫っていた。
・
「───つまり、アラタは教祖が信者をぶっ殺しまくるであろう10時過ぎに向けて今までできる限りこの近くでレベルを上げて、備えていたと。」
「・・・あぁ。」
アラタは無駄に大きなベージュ色のソファに座りどこか遠くを見つめるようにしてぽつりぽつりと話し始めた。
「モンスターが現れ始めているのは話したよな?」
「・・・うん」
「それで、今までここらへんでモンスターがいないか探し回ってたんだ。
そこの山の神社の方にさっきの獣みたいなやつがウロウロいてさ、それで死なないように一匹づつちまちま倒してたってわけ。」
アラタは袖をめくって上腕の筋肉のこぶをミナに見せつける。
「どうだこれ。すごくない?俺ガンバったんだぜ!」
アラタは瞳を輝かせているのを見てミナは懐かしさを覚えた。
「・・・ふふ よかったじゃん」
・
二人は朝食を食べ終え一息つく。アラタの話もひと段落した。
「教祖のレベルはあの時点で6。もう俺のレベルで十分に叶うはずだ。
だが、念には念を入れてもう少しだけレベルを上げたい。ミナも自分の力、試してみたいだろう?」
現在時刻は午前6時3分。
この時間帯に前回アラタは起き、「ゲーム化」に気づいた。その後カーテンを開け放つとそこに空を飛ぶドラゴンの姿が見えたのだ。
「もうすぐ飛んでくるはずだ。この家の近くにドラゴンが。
・・・それをミナの岩を発射する魔法で攻撃して欲しいんだ。」
「─まさか、そのドラゴンを倒そうとしてるんじゃないよね。」
「あぁ。もちろん!ドラゴンぶっ倒せばレベルは上がりまくりだろう。」
「絶対にやばいって。アラタ、殺されたばっかりなんでしょう?ドラゴンにまた殺されちゃうって。」
「大丈夫だって。死んでもまだ残機あるし。」
「えぇ・・・そういう問題なの?」
「冗談だって。
それにミナも見ただろう?俺、10レベなんだ。
やばそうな見た目をした獣も剣だけで打ち倒せる。やばかったら家を捨てて山の中に逃げればいい。火災保険には入ってるしさ!
パッとやって終わりだ。バスのこともあるから6時半にはここを出たい。10分でケリをつけるよ」
「・・・」
ミナは納得することができなかったが、先ほどの獣との戦いを見て、ワンチャン行けるかもという考えが脳裏に張り付いている。
それに、ミナも自分の魔法やスキルを試してみたかった。
「わかったよ。じゃあもう時間ないんだし、さっさと準備しよう。」
二人はステータス画面を操作し、武器を取り出す。
ミナは自分の手に持った杖をまじまじと見つめた。ミナの眼差しに応えるかのように杖の装飾は光を反射して鮮やかに煌めく。
「なんか本当、夢を見ている気分だよ。」
近くで大きな鳴き声が聞こえる。
「ドラゴンだ!いくぞミナ」
「う、うん」
二人は大急ぎで外へと駆け出した。
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