第6話 新世界ー2

 昨晩の出来事が嘘だったかのように二人の気分は高揚していた。


 よくわからない感情が、興奮が、二人を襲っている。


 まるでプレゼントをもらったクリスマスの朝の子供達のようだった。


 家に戻った二人はドタドタとリビングの方へ駆け寄りとりあえずテレビをつけてみる。


 テレビでは案の定ステータス画面の件についてのニュースが流されていた。


 テレビに映るアナウンサーは「今、私たちの視界にも表示されています」などと言っていたが、ミナとアラタにはテレビに映る人間たちのステータス画面のようなものは確認することができない。


 どうやら機械を通してでは見ることができないようだ。


 二人はテレビをつけたまま朝食を作り、食べた。その最中、二人でこれからどうするか色々と話す。おかげでなかなか食事が進まなかった。


 話を聞く中で、ミナが知っていることは


 ・ステータス画面のようなものの基本的な操作方法


 ・魔法の杖の使い方


 以上で全部であるということが分かった。

 その他の情報についてはまだ何も調べていないらしい。

 つけっぱなしのテレビからはミナもアラタも知らない情報が次々と流れてくる。


 どうやら全ての人間にステータス画面のようなものが表示されるだけでなく、「モンスター」まで出現しているようだ。テレビでは巨大なトカゲのようなものに破壊される外国の都市が映し出されていた。


「アラタ、これ見てよ」


 ミナは朝食のパンを頬張りながら自分のステータス画面を器用に回転させてアラタに見せてくる。ミナはアラタから見て左端の方を指差した。

 何かゲージのようなものが溜まっており、「2」と数字が表示されている。


「──もしかしてレベルってやつかこれ」


 アラタは自分のステータス画面を表示させると、ミナとは違い、ゲージが一ミリも溜まっておらず、数字も「0」と表示されていることに気づく。ミナは朝食を頬張りながら話を続ける。


「朝、魔法の試し撃ちをしていたらこのゲージがピロピロ言いながら溜まっていったんだよ。少しづつだけどね。」


 アラタはこのことを聞いて急いで裏口から外に出る。山の中だと蚊をはじめ、虫は非常に多い。何もせずともすぐに数匹アラタの元へやってくる。

 アラタはそれを勢いよく叩き潰す。


 するとピロンという音と共に、左端のゲージがわずかに溜まったことに気づく。アラタが再び潰した手に目を戻すと、そこにいたはずの蚊の死骸が消えていくのが見えた。


 散り散りになって跡形もなく苦衷へ溶けていく。数秒もしないうちに完全に蚊の死骸がアラタの手から消えた。アラタは家に戻ってこのことをミナに報告する。


「生き物を殺すとゲームみたいに経験値が貯まるんだ。間違いない。

 左端のこれは『レベル』だよ。ミナが魔法を試し撃ちした際、巻き添えで何匹が虫を殺してたんだ。だから、ミナはゲージが埋まっていってレベルが上がったんだよ。

 ・・・多分ね。」



 ミナはおぉという感嘆の声と共に目を輝かせる。


 ───もっと知りたい。


 二人の考えていることは一緒だった。

 朝食を済ませると二人は階段を駆け上がり、アラタの部屋へ入ってパソコンをつける。


 パソコンはスリープ状態で、画面を開くと、ミナがステータス画面のようなものについて調べた痕跡が残っていた。


 二人は画面に釘付けになりながらネットに転がる情報を手当たり次第に見てゆく。


 すでにステータス画面についての全ての機能を解説するサイトや画像が出回っていた。


 どうやら左上の数字は自分のレベル数で間違いないようだ。

 ゲージは現在の「経験値」の貯まり具合を表す。


「経験値」の貯め方は情報が錯綜しているが、生き物を殺せば間違いなく貯まるようだった。


 すでにレベルを10上げたと名乗る人間も見られた。

 テレビでも言っていた、「モンスター」を倒したらしい。


 レベルについて何となく分かった後、次に調べたのは右端のアイコンの意味だ。


 これは自分の「職業」を表すものらしい。

 こちらも現在情報が錯綜していて正確なことはよくわからないが、「職業」は4つ確認できているようだ。

「職業」の振り分けは今のところ法則性は見られず、ランダムに振り分けられているらしかった。


 呼び名は様々だがとにかく剣が配布される「剣士」、

 魔法の杖が配布される「魔法使い」、

 盾と片手武器が配布される「守り人」、

 弓が配布される「射手」


 の四種類があることが分かった。ミナとアラタはそれぞれ「魔法使い」と「剣士」であることがこれらの情報から考えられる。

 レベルが上がるとどうなるのかこれはまだあまり情報が出回っていないが、どうやら身体能力が上昇するようだった。


 しばらく情報を見て回ると、ミナとアラタはパソコンの画面から顔を離してお互いの顔を見る。


「すごいことになっちゃったね。」


「あぁ。」


 しばらく沈黙が続いた後、二人の頭の中には共通の考えが浮かぶ。



 ───母は今頃どうなっているんだ



 思えば母は昨晩帰ってきていない。

 最近帰りが遅くなっているとはいえ、一日中家に帰ってこないことなんてなかった。


 アラタは念の為に母が帰ってきていないかという顔でミナを見るが、ミナは首を横にふる。やはり母はあれから帰ってきていないようだ。


「モンスター」が出現したという情報から、母は何か大きな事故に巻き込まれてしまったのではないかという考えがよぎる。

 その次に、昨日の二人を見送った不気味な笑顔が脳裏に浮かぶ。


 たとえ「モンスター」に襲われていなくてもどちらにしろ母がまずい状況にあることに変わりはない。


 アラタは意を決してミナに言う。どうやらミナもその気であったようだ。



「───母さんを助けに行こう。」

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