第3話 ハーレムのメンバー

 校内の壁に絵師さん募集の張り紙をしてから数日後。放送部の部室に来客があった。


「あのー、絵師の募集を見たのですが」


 く、暗い、暗い女子が来た。これは幽霊の麗子の方が人間臭い。


「ようこそ、とりあえず、座るといい」

「は、はい」


 前髪が長く目線がわからない。第一印象は怖いな……。


 暗い女子はパイプ椅子に座るとスマホを取り出してイラストを見せる。うむ、金髪の明るい少女が描かれている。これなら問題無くVヤーチューバーが出来そうだ。


「ありがとう、前向きに検討する」

「あ、名前がまだでしたね、私は『城之木 和泉』です、趣味は呪いとイラストを描く事です」


 あああ、『呪い』とか聞こえたな。聞こえなかった事にしよう。


 ま、絵師さんとしての腕はありそうだ。


「あ、あ、得意の呪いは藁人形です」


 ここは現実を直視しなければならなない。この女子は呪いが趣味だ。


「で、その呪いは効力のあるモノなのか?」

「はい、心の臓を釘で突き刺す様な痛みを与える事が出来ます」


 藁人形をカンカンするのか……。


「君、恋に興味は有るかな?」


 俺が困っていると、麗子が声をかけてくる。


「はぃ?」

「ウチはこの真司に恋をしている。ウチの同盟に入るといい」

「貴女は幽霊ですよね、私の呪いが効かない、脅威なる存在です。敵に回せないなら同盟に入ります」


 おい、俺は嫌だぞ、しかし、他に絵師さんが居ないか……。


 それは苦渋の決断であった。


×××


 和泉にそれぞれのキャラを描いてもらい、Vヤーチューバ―の試験放送の準備をしていた時の事である。


 上機嫌の教頭先生が放送部の部室に入ってくる。


「要件は他でもない、正式に部活認可が下りたので顧問の先生を紹介する」


 顧問の先生か……当たり前だが必要だな。ここは優しい先生が良いが選ぶ権利は無いか。


「入りたまえ、美筒君……」


 美筒先生?!それは『数学の美女』と呼ばれる二十五歳の美人女教師だ。


 そう、男子の人気投票で一位のイケてる先生だ。


「よろしく、お願いします!!!」


 あれ?緊張している。『数学の美女』が何故だ?


「はい、禁断の恋と解かっていても我慢できずに顧問に立候補してしまいました」


 これは嫌な予感がする。ハッキリ言ってこの放送部で男子は俺だけだ。


「あの~ぅ、美筒先生は俺の事が好き?」

「きゃ、きゃ、私から言わせないで下さい」


 あー好きなのね。今の時代、先生と生徒との恋愛はありえないのである。楽観的に考えても大学を卒業してスタートラインだ。その間に音信不通でいて初めて成り立つのだ。そんなストーカーいや違うか、純愛との表現でも気持ち悪い。


 ここは幽霊の麗子を紹介してレズの世界に行くといい。


「真司、何か嫌な事を考えただろ、幽霊でも寒気が走った」


 あああ、バレてる……。


 こうして。我、放送部は俺だけが男子の部活となった。


×××


 今日も放送室で会議である。視聴ターゲットはこの流星ヶ丘高校の生徒がメインである。


「生徒や先生のゲスト出演などどうだ?」


 和泉が手をあげて提案する。確かにVヤーチューバーの放送なので絵師さんとして仕事が毎回発生するな。ホント、どん欲な提案である。関心してないで俺も提案しよう。


「舞姫にゲストからのリクエストをサックスで応えるのもいいな」

「はい、私頑張る」


 ここはどれだけリクエストに応えられるか試してみるか。


「『ルージュの伝言』は奏でられるか?」

「ぽ、お約束のリクエストだ、私頑張るわ」


 ♪~♪。


 ほー、即興のリクエストにも応えられるか……。


 流石、舞姫だ。これなら質の高い放送が出来そうだ。早速、番組の宣伝ポスターの作成だ。


「和泉、ポスターデザインを頼むぞ」

「はい、マスコットの藁藁くんを入れてもいいか?」

「あー要らん事をするな」

「ケチ……」


 うん?麗子が手を上げる。


「メインパーソナリティーはウチがやりたい」


 そう、幽霊の麗子が一番まともだなと改めて確信するのであった。


「決まりだ、麗子に司会役を頼もう」


 すると、美筒先生が手を叩く。


「会議のダラダラはダメ、次の会議はポスターが完成してからよ」


 うむ、顧問の先生らしい事を言うな。


「この先は真司君と個別レッスンよ」


 あああ、数学が嫌いになりそうな毎日になったな。そんな事を思いながら個別レッスンを断るのであった。

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