第11話,EX不死鳥七海

篠原七海の壮絶な一日

篠原七海は、ドレスを完成させた瞬間、意識を失った。彼女は、一週間、飲まず食わず、寝ることすらなく、針とハサミ、ミシンを動かし続けていた。その結果、彼女の自宅の部屋は、散らばった布切れや糸、使い終わった針の山で埋め尽くされていた。その光景は、まるで戦場跡のようで、創作のために捧げた彼女の情熱と代償を物語っていた。


ナナミシノハラは、倒れた七海を目の前にして絶句した。目の前に広がる惨状に、彼の心は重く沈んでいた。怒りよりも深い疲労と心配が入り混じり、彼の声は震えていた。「本当に…あなたって子は…なんて無茶なことを!」その言葉は、恋人や友人への嘆きではなく、我が子を心配する母親のような、切実な叫びだった。ナナミの肩は、激しく震えていた。彼女の才能と情熱を誰よりも理解しているからこそ、彼女の無謀な行動に心を痛めていたのだ。


「早く…医者を呼んで!」ナナミは、震える声で秘書に指示を出した。秘書は慌てて電話を取り、救急車を呼ぶ。ナナミの目は、倒れた七海から離れることができず、心は彼女の無事を祈る一心だった。七海の才能と情熱は、彼にとってかけがえのないものであり、それが彼女自身を危険に晒している現実に、深い後悔を感じていた。


「どうか、無事でいてください…」ナナミは心の中で何度も繰り返した。彼の思いは、七海の命を守るために必死だった。救急車のサイレンが遠くから聞こえてくる。彼は、七海が目を覚まし、彼女の笑顔が戻ることを強く願った。


その時、ビルの周囲は騒然としていた。七海が倒れたという噂が広まると、周囲の人々は心配そうに集まり、何が起こったのかを知ろうとした。ナナミは、その視線を感じながらも、七海のことだけに集中していた。彼は、周りの声が耳に入らないほど、焦りと不安に包まれていた。


救急隊が到着し、迅速に現場を確認する。隊員たちはプロフェッショナルな態度で動き、七海の状態を把握しようとする。心拍数や呼吸をチェックし、必要な処置を施す。ナナミは、彼らの手際の良さに少しだけ安心感を覚えたが、それでも心の奥にある不安は消えなかった。


「彼女は何日も寝ていないし、食事も摂っていないようですね。すぐに搬送します。」救急隊員の一人が言った。その言葉にナナミは、胸が締め付けられる思いだった。七海の情熱が、彼女自身を傷つけてしまった結果なのだ。彼女の才能をもっと大切にしてほしいと、心の中で願った。


救急隊が七海を担架に乗せ、ビルの外に運び出すと、周囲の人々はその光景に息を呑んだ。ナナミは、彼女が運ばれる様子を見つめながら、心に深い傷を負った。彼は、七海の才能や情熱が、時には彼女を危険にさらすことがあるという現実を痛感していた。


「どうか、彼女を救ってください!」ナナミは、救急車の後を追いながら、心の中で叫んだ。七海の命が、彼女の情熱に飲み込まれてしまわないようにと、切実な思いを抱えていた。


救急車が走り去ると、周囲には静寂が訪れた。ナナミは、彼女の才能と情熱がどれほど素晴らしいものであるかを知っている。それでも、彼女が自分自身を犠牲にするようなことは、決してあってはならないと感じていた。「あなたの才能を、もっと大切にしてほしい…」その思いが、ナナミの心の中で何度も響いた。


その後、ナナミは病院に向かう。彼の心には、七海を守れなかった自責の念が渦巻いていた。彼女の情熱を理解しながらも、その情熱が彼女自身を危険に晒すことに気づかせてしまった自分を責めていた。彼は、七海が目を覚まし、また笑顔を見せてくれることを願ってやまなかった。


病院に到着すると、ナナミはすぐに七海の治療が行われている場所へ向かった。医師たちが忙しく動き回り、彼女の状態を確認している。ナナミは、ドキドキとした心臓の鼓動を感じながら、祈るような気持ちで待ち続けた。


時間が経つにつれ、ナナミの不安は募る一方だった。彼は、七海の才能を大切にするために、どのように彼女を支えるべきかを悩んでいた。彼女が目を覚ましたとき、どのように声をかけるべきか、そのことばかりが頭を占めていた。


やがて、医師がナナミの前に現れた。彼の表情は厳しさを帯びていた。「篠原さんは、今は安定しています。しかし、しばらくは休養が必要です。」その言葉に、ナナミはほっと胸を撫で下ろしたが、それでも七海の無理がたたったことに対する心配は消えなかった。


「彼女の情熱を、もっと大切にしてほしい…」ナナミは心の中で強く願った。彼は、七海が再び自分の才能を活かし、幸せに過ごせるよう、全力で支えることを決意した。彼女が目を覚まし、また一緒に未来を築いていくために。


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