第16話 消えた証明の真実

ロンドンの夜、霧が濃く立ち込める中、ハーディー、ラマヌジャン、そしてシャーロック・ホームズの三人は、数式の世界と謎の組織が交錯する最終決戦を迎えようとしていた。


金属製のケースを持った男たちが、部屋に静かに足を踏み入れた。その顔には冷徹な表情が浮かんでおり、まるで証明そのものが目的であるかのようだった。


「証明を渡せ。」

男の一人が低い声で言った。

「それは我々のものだ。」


ホームズは冷静に、しかし鋭い視線で男たちを見つめた。

「君たちがその証明を欲しがる理由はわかる。だが、数学者にとって、真実を隠すことはできない。」


「それが、君たちの信念か?」

男はにやりと笑い、ケースを開けた。中には、バクスター博士の証明ノートが慎重に保管されていた。


ラマヌジャンはそのノートを見て、息を呑んだ。

「これが……本物の証明だ。」


「その通り。」

ホームズが静かに答える。「だが、この証明はただの数式ではない。君たちが求めるものが、すでに**公開された瞬間に危険を伴うことを理解しているのか?」


男は少し間を置いて答えた。

「リーマン予想が証明されれば、国家の暗号が崩壊し、世界の秩序が揺らぐ。」


「そして、その秩序を手に入れたいと思っているのは君たちか?」

ホームズが声を強くした。


「我々は、秩序を保つ者だ。君たちが証明を握っている限り、それは危険だ。」

男は冷徹に答えた。

「渡すか、手を出すか。」


その瞬間、静かながらも緊迫した空気が部屋に満ちた。ハーディーは息を呑み、ラマヌジャンの手元を見た。もし証明が渡れば、それは破滅的な結果を引き起こす可能性があった。しかし、もしそれを隠すことで、全世界に数学の真実を届けられないのであれば、それもまた間違っているのではないか。


その葛藤の中で、ホームズが一歩前に出た。

「君たちが望んでいるのは、証明の力だ。しかし、その力を制御するのは、君たちではなく、世界の全ての人々だ。」


「それは違う。」

男が声を荒げた。「証明が暴走する前に、我々がそれを管理しなければならない。」


その時、突如として部屋のドアが開き、エリザ・スタンフォードが現れた。


「……エリザ!?」

ラマヌジャンが驚いて声を上げた。

エリザは静かに部屋に歩み寄り、証明のノートを手に取った。


「私が証明を持っているのではなく、証明こそが私を持っているのです。」


その言葉に、全員が息を呑んだ。

エリザはゆっくりと、ノートをテーブルに置いた。


「私が失踪していたのは、証明がどれほどの力を持っているかを理解していたからです。証明が公になれば、世界は混乱し、数学が支配される。だが、証明が必要とされるのは、数学の真実を知る者たちだけではない。」


その言葉に、ハーディーは眉をひそめた。

「それを知る者たちが……君たちのように?」


エリザは少し微笑み、首を振った。

「いいえ、証明はすべての人々の手に渡るべきものだ。数学が世界を支配するのではなく、数学が世界の一部として存在すべきだ。」


ホームズはゆっくりと頷いた。

「エリザ、君の言う通りだ。」


その瞬間、男たちは動きを見せた。だが、ホームズは冷静に声を上げた。

「待ってください。」

その一言に、全員が息を呑んだ。


「君たちは数学を支配する者ではなく、数学の守護者であるべきだ。」

ホームズが静かに言った。

「証明は公開され、すべての人々がその力を理解し、共に進んでいくべきだ。」


その言葉に、男たちは一瞬動揺した。


「今、証明が持つ力を自分たちだけのものにしてしまうことは、数学そのものを否定することだ。」

ホームズの言葉は、重く響いた。



証明の公開と決断


エリザは静かに証明ノートを手に取り、全員の前に差し出した。

「これが真実であり、公開されるべきだと思う。」

彼女の言葉に、ハーディーは静かに頷いた。


「証明を公開するのは、数学者の義務だ。」

ラマヌジャンもそう言った。

「だが、それをどう伝えるかが問題だ。」


ホームズは微笑んだ。

「それが、君たちの選択だ。」


男たちは、再び証明を求めて近づこうとしたが、その瞬間——


「それを渡すわけにはいかない!」

ハーディーが強く声を張り上げた。

「私たちの証明を公表することが、最も重要だ!」


その瞬間、証明ノートの中身が、ゆっくりと公開され始めた。世界中に向けて、数学的な真実が解き放たれた瞬間だった。


男たちは動けなかった。なぜなら、それが示すのは、世界中のすべての数学者にとっての真理だったからだ。

そして、その証明が世界を変える力を持っていることを、誰もが認識することになった。


エリザは、証明を公にしたことで、最も重要なことを実現したのだ。数学の真実が、人々の手に渡る瞬間が訪れたのである。



最終章:新たな始まり


ロンドンの夜が明けた。

ハーディーとラマヌジャン、そしてホームズは、証明が世界に広がった後の新しい数学の世界に立っていた。

今やその証明は、ただの理論にとどまらず、全世界を変える力を持つものとして受け入れられていた。


「全てが終わったわけではない。」

ホームズは静かに言った。

「これからが、新しい始まりだ。」


ラマヌジャンは静かにうなずいた。

「数学が、世界を変える力を持っていることが証明された。」


「そして、真実がすべての人々に伝わった。」

ハーディーは微笑んだ。

「私たちの役目は、数学の未来を守ることだ。」


証明が公開された瞬間、世界は変わった。

だが、それが示すものは、ただの数学的真実にとどまらない。

それは、全人類にとっての新たな道しるべだった。

数学の力が、今後どのように使われるか、すべては私たちの手に委ねられている。


それが、真の始まりであった。



最終回:完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハーディー&ラマヌジャンの数学探偵録 湊 マチ @minatomachi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ