かの国の子
かの国の王は相当に偉大であった。百の耳だけでなく、目を持ち、全知全能だとありとあらゆる疑問を答えた。満場一致からしても完璧な王だったから、王はよく人に夢をみせていた。嘘ではない、少年の夢である。
その国のある子ども。相当な農民の子。子は真摯に王を尊敬していた。毎週流れる王の姿を見ては親と一緒になって頭を下げた。王が鉄に困っているとそこで言うと、子は親と農具を溶かした。王が烏の鳴き声がうるさいと言えば、弓の修練を重ねて辺り一帯の鳥を撃ち落とした。まだ鉄が足りぬと言われれば、親と近くの鐘を持って行った。
親は褒めた。パンをちぎって褒めた。「お前はこの国の民に相応しい。王はそう思っていくれるだろう」子は笑った。親はまたそれを見て笑って、もう一切れちぎった。
王は耳を齧られながらよく云っていた。「兵が足りぬ。兵が足りぬ」と。だから子はそれを聞きつけ、兵になった。されど子は運が悪くその才能がなかった。兵隊に入ってからずっと最低の成績を記録し続けていた。しかしその憧れは本物だった。理想と主義思想も疑いの無いほどであった。隊長もそんな側面を知っていて、彼を外すのを迷った。
そんなときであった王が隊の様子を見に来た。彼は食いしばる気持ちを、その秘めたる心に染まって、その日は一層に頑張った。王はそんな彼を見て云った。
「君は力不足だ。どうやら他の人材がいるらしい。ここを離れたまえ」
彼は幾度もなくその言う事を聞いてきたのに、その一言だけはどうしても聞けなかった――だから聞かされた。
道化師は笑った。その王の姿を笑った。腹を抱えて笑った。彼と彼があまりにそっくりだったから。彼もちょうどその年の頃、何の才能もなかっただろうと。しかし彼は今や復讐者。道化師は彼から抜いた頭のネジを飴玉のようにしゃぶって踊った。
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