9回目のチャレンジ

大田康湖

9回目のチャレンジ

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。正確には、橋上はしがみ真衣夢まいむがスマホに夢日記を付け始めてから9回目である。


 夢の始まりは万年筆をくわえたトリの降臨からと決まっている。トリは宙にカギ括弧を描く。そのカギ括弧の間に切り取られたような空間が現れ、真衣夢は吸い込まれる。

 空間の向こうは、天井にまで続く本棚が連なった部屋だ。まるで図書館のようだが、レジにトリが座っているので書店なのだろう。異様なのは、本棚の一角がカプセル状のベッドになっていることだ。「1」から「10」までのベッドが蜂の巣のように並んでいる。

『お好きなカプセルにお入りください』

 案内に従い、真衣夢は梯子を使って「7」と表示されたカプセルに入った。ベッドの枕元には『最高の目覚め』と書かれた本が置かれている。

 本を開いた瞬間、真衣夢は新たな空間にいた。食堂のようなテーブルには5つの袋が置かれている。

『お好きな袋をお選びください』

 案内に従い、真衣夢は「4」と書かれた袋を選ぶ。袋を開くと、細かい粒が勢い良く飛び出し、辺りに散らばった。空間を埋め尽くすように花が開いていく。

 気がつくと、真衣夢は大学の講義室にいた。しかし学生は誰もいない。夢はまだ続いているのだ。机に置かれたプリントには、教壇にいるトリが描かれ、黒板に書かれた10個の単語を指し示している。

「好きな問題を選んで文章を作りなさい」

 真衣夢は今まで選んだ記憶がない9番の文章を選んでみた。

「ソロプレイで脱出チャレンジする」

 次の瞬間、講義室もプリントも消え、真衣夢は11個のドアがある部屋の中にいた。ドアにはそれぞれ単語が書かれている。ここでも真衣夢は初めてのドアを選んだ。

 「第六感」と書かれたドアを開くと、真衣夢は自分の部屋にいた。しかし、部屋には数字の札が付いたライトが7個ある。真衣夢が「5」と書かれた札を引くと、見覚えのある筋肉男が現れる。

 突然強烈な風が吹くと、真衣夢は荒野にいた。バッファローの群れに追われながら走っていると、立て札のある8個の穴が現れる。真衣夢は「トリあえず」という立て札の穴に飛び込んだ。

 今度は5人のアイドルが握手会をしている会場だ。真衣夢の悪夢はまだ終わらない。

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9回目のチャレンジ 大田康湖 @ootayasuko

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