大学受験に落ちる夢

とろり。

第1話 夢と現実



 あの夢を見たのは、これで9回目だった。




 「あの夢」とは、大学受験に落ちる夢である。しかし、落ちる夢とは不吉な、とはさほど思わなかったのだ。なぜだか知らないがその時は合格するという勢いがあった。

 高校の友だちに話すとこぞって可哀想な顔をする。ああ、大学受験に失敗する夢を9回も見るなんて……と同情の眼差しである。

「不安が夢に現れているんだな」

 親友はフロイトみたいにそう言った。

 確かに不安が無いわけではない。しかし私はそこまで大きな不安を感じてはいなかった。


 そもそも「あの夢」を見始めたのは高校3年生の夏だ。模試の結果が悪く落ち込んだその夜だ、と記憶している。模試なんて作成する予備校によって難易度が違う。傾向もまた然り。だが、周りが良い結果で比較する、いや、比較されてしまうとどうしても感じは悪い。

 2回目から7回目は立て続けに現れた。夏休みの終わり、新学期のスタート前の話だ。当時は模試の悪い結果と重なり、気が滅入っていた。が、8回目までだいぶ間隔が空いた。学校のテストの点数が少しずつ上がってきたからだろうか。

 そしてその8回目はクリスマスの夜だった。テストの点数は上がり模試の結果も良かったのだが、この日再び「あの夢」をみたのだ。

 現実、成績は上がってきている。「あの夢」とは矛盾というか上手く噛み合わない感じだった。




「正月に見たのか?」

「ああ」

「それが9回目?」

「そう」

「ほんとに落ちるんじゃないか?」

 親友は少し心配して声のトーンが下がっていた。私はそんなことはない、とは言い切れなかった。未来のことなんて誰も分からないのだから。


 センター試験も二次試験も終わり、合格発表の前日のことだった。10回目の「あの夢」を見たのだ。朝起きた時にはその嫌な夢で変な汗をかいていた。試験はもう終わっている。今さら何を考えてももう結果は出ている。私は諦観に浸るも大学キャンパスまでバスで向かった。


 発表。

 掲示板に自分の番号を探すとあったのだ、確かに自分の番号が。「あの夢」とはなんだったのか。全てが杞憂に終わった。

 それ以来「あの夢」は見なくなった。大学生になったから当然と言えば当然なのだが。しかし今も「あの夢」のことは不思議と覚えている。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大学受験に落ちる夢 とろり。 @towanosakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ