第5話

「パーティーを抜けてほしい」

「なんで?」


私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。

彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。

私が聖女であることが、どれほど重要なことか。

聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。


―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。

そんなに先ほどの戦闘が気に食わなかったのかしら…。

いつも通りの戦闘だったはずだけど。


私は呆然とした。別に私だって、旅をしたくてしているわけではない。

無理やり勇者パーティーとして、見も知らない赤の他人と旅をするなんて、私にとって苦行以外の何物でもなかった。

しかし、半年だ。

旅を続けて半年。

魔物との闘いは、慣れないし、気を張ってばかりの旅はしんどかった。

それでも、戦いの中で、私は彼らと少しばかりは仲良くなれたと感じることがあった。

会話をすれば、笑うことだってあるし、冗談だっていうこともあった。

それなのに、そう思っていたのは、私だけだったということだろうか。

ソレイユは冷たく言葉を投げかけてきた。


「疲れたんだ」

「……私だって疲れてる」

まるで、自分たちだけが疲れていると言わんばかりだ。

私だって、連日の戦いに疲れていた。

彼らの顔は、疲れてふてくされた子どもだった。


「お待たせしました!ビールです」

「ありがとう。ここに置いてください」

「かしこまりましたー」


店員が、場の空気を読まずに、ドン、とジョッキを置いていく。

それをソレイユは、邪魔そうに手でよけた。

私はというと、構わずビールを飲んだ。

魔法が発達しているおかげで、こんな庶民的な店でも冷たいビールが飲めることに感謝だ。


「ぷはー!」


ビールを飲む私をそれはもう冷たい目で見ている。

こんな話、酒でも飲んでいないと聞いていられるわけがない。

シラフで聞けるほど、私は図太くないのだ。


「私のおごりなんだから、気にせず飲んだら?」

「結構。サクラ。ごまかさないでくれ。…私たちは君がいなくても大丈夫なんだ。それに、君がいなくなれば、私たちはもっと早く魔王を倒すことが出来る」

「だから、私を追い出したい?」


どうやら彼らは、私がいなくてもパーティーを続けることができると考えているようだ。

まぁ、それはそうかもしれないが。


「私を追い出さしたことがばれたら、国が黙っていないと思うけど?」

「そんなことはない。魔王を倒す。それが私たちに与えられた任務であり、命令だろう?君がいようといまいと、関係がない」

「…魔王を倒せればね」

「倒せるさ。疑っているのか?私たちの強さを君はよく知っているはずだ。そうじゃなければ、君は今頃死んでいるからね」

「そうかもね」


私の言葉にソレイユたちは、すっかり気分を害したようだった。

怒った顔を隠しもせずに、「君のそういうところが嫌いだったよ」と言って、席を立っていく。


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勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね? 猿喰 森繁 @sarubami

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