第7話

翌日六時。冬の陽は空気の寒さに容易に負ける。こんなに朝早くから出るのに一言も発さない清子ちゃんは初めてだった。清子ちゃんの家で暮らし始めてから三年が経っていた。


芸能事務所「暁」俺も初めてくる場所。


図体の大きさを生かすように大股で歩く清子ちゃんはもはや力士。痩せ細った人たちの間を通り抜ける。

「ちょっと、ここは関係者以外立ち入り禁止なんです。どちら様ですか」当たり前に止められた。

「村瀬百子の母ですが?」

「え、」

「百子はどこですか」

「いやそれは…」

「ここ最近全く会っていない家族と少し会話させるよりもテレビの撮影する方が大事ですか?踊る練習を一日中させる方が大事ですか?」

「…ここは勝手に立ち入っていい場所じゃないんです」


「お母さん?」よく通る声が響く。ハイヒールを履いて白いドレスを着ていたももちゃんだった。今まで俺が見たことのある中で一番痩せ細った人で、最近一番かわいいと称賛されている人だった。

「どうしたの、こんなところまで来て」

「どうしたの、じゃないでしょう。なんでそれで生きていられるのよ、もっと食べなさいよ!どうして自ら死の淵に立つようなことをするの!お父さんと同じじゃないの…」

「…」

「ほら、帰るよ」清子ちゃんはももちゃんの手首をぎゅっと握る。

「帰るって…私これから仕事があるの。何勝手に来て帰らせようとしてんのよ」

「お父さんは過労死だったのを忘れたの?」

「私は死なない」

「じゃあ見るに耐えない姿を見せないで」

「勝手に来たのそっちでしょ」

あ、まずい。どうしよ

「アイドルって痩せ細る職業じゃないでしょう」

「今私は一番かわいい姿なの!邪魔しないでよ!職業としての寿命か身体の寿命か、先に尽きるのは職業なんだから全うさせてよ!」

ラッキーなことに俺は桜色のリードをつけていない。俺はちょっと助走をつけてももちゃんに向かって走る。あれ、あんまり速度が出ないな、年か、まあいいか。そしてももちゃんの元へジャンプ!

「セブン!?」

久しぶりに名前を呼んでもらえた。久しぶりに笑顔を見た。そうだよ、俺がラッキーセブンだよ。ももちゃんを笑顔にさせるアイドルだよ。

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