SFな夢

☆白兎☆

SFな夢

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 一郎は光る筒の中に居て、空に浮かぶ宇宙船に登っていく。宇宙船の中に入ると、そこで夢から覚める。そんな夢を今日で九日続けて見ている。一体なぜ、同じ夢を連続して見ているのか? 何かに見せられているのか? 気にはなるが、誰に相談すればこの疑問に答えが出るのか分からなかった。ネットで調べると、自分の願望が夢になったのだという解説だった。しかし、一郎は宇宙船に乗りたいわけではない、夢の状況からして、SF小説や映画の中でよくある宇宙人に誘拐されるシーンのようだった。一郎は宇宙人に誘拐されることを望んだことは無いのだから、願望が夢になったというわけではない。それならば、あの夢は何かに見せられているのではないか、という事で考えてみる。しかし、これもまた難解で、そもそも人の脳をコントロールすることなど出来るのだろうか? 一郎は自宅で寝ていて、誰かが侵入した形跡はない。という事は、遠隔で一郎の脳に夢を見せているという事になる。現在の科学で出来るのだろうか? 一郎は普通の会社員で、そんな知識は無いから、よく分からなかった。


 一人で悩んでいても、まったく進展は無かった。そこで一郎は、大学時代からの友人で、テクノロジーの会社に勤めている吉川に相談してみる事にした。

「一郎、久しぶりだな」

 待ち合わせたカフェで、先に席に着いていた一郎を見つけた吉川が、昔と変わらない笑顔を向けて言った。

「おう、久しぶり」

 二人は大学を卒業して、社会人となってからは、お互いに仕事が忙しく、会う事はおろか、連絡さえも、全くしていなかった。大学時代はあんなにも長い時間一緒に居た仲だったのにと、一郎は昔を振り返っていた。

「それで、夢について知りたいんだって?」

 と吉川が聞くと、

「そうなんだ。電話でも話したんだが、俺が宇宙船に連れて行かれる夢だ」

 と一郎は、他の客に聞こえないように、声を落として言った。

「それで、今の科学で人に夢を見せる事が出来るのかと言う質問だったな? その答えは出来ると言っておこう。ただし、これは極秘だ」

 と吉川も声を潜めて答えた。

「それじゃあ、自宅で話そうか?」


 二人は一郎の自宅マンションへ場所を変えて話しを続けた。

「それで、その極秘を聞かせてくれるんだな?」

 一郎が聞くと、

「極秘は極秘だ。例え友人のお前でも話せない」

 と吉川はきっぱり言った。

「え? 教えてくれないの?」

 一郎ががっかりして言うと、

「これは独り言だからな」

 と吉川が前置きして語り始めた。


 俺が勤めている会社の名前は、『夢工房株式会社』。名前の通り、夢を作っている。つまり、夢のコントロールだ。見たい夢を売る事を商売にしようとしている。しかし、まだその実現は出来ていない。今は実験をしている。ランダムでアンケート調査を行って、被験者に夢を見させている。被験者は観たい夢をアンケートに書いて、わが社はその夢を作って被験者に提供する。そして、夢を見た人にはその後のアンケートにも応えて貰っている。ただ、これに少し問題があって、被験者ではない人にも、夢を見せてしまったようだ。夢を見せるための機械を被験者に送って、それを作動させて寝る事で、夢のコントロールが出来るのだが、隣の住人も、その影響を受けて、被験者の夢を見てしまったという事だ。

 一郎の右隣の住民がその被験者の一人で、アブダクションをご希望だったんだ。


 と吉川がここまで話すと、

「まあ、そんなわけで、改良するために一旦、機械は回収する事になった」

 と言葉を続けて、一郎の隣人から機械を回収して帰って行った。

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