人類滅亡カウントダウン!

雪車町地蔵@12月10日新刊発売!

カウントダウン、その先へ

「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」


 あらゆる人間が、そう証言した。

 その夢を視たのは、誰もが初めてであったにもかかわらずだ。

  〝ザ・カウント〟とされた現象の発生であった。


「あの夢を見たのは、これで8回目だった。」


 二度目に〝ザ・カウント〟が起きたとき、人類の主観は確かに8回目だと認識した。

 もしも外部端末、コンピューターやカルテに記載がなかったのなら、一度目の夢に気が付くことすら出来なかっただろう。

 そして恐るべきことに、繰り返すたび夢を視たという認識の数は減り続けていったのである。


 7回見た。

 6回見た。

 5回見た。


 そう、〝ザ・カウント〟とは、カウントダウンを示していたのだと、この頃になってようやく、人類は理解した。

 問題はいかなる手段を以てしても、この夢に抗う方法がなかったことだ。

 どれほど睡眠を我慢しても。

 投薬によって眠気を抑制しても。

 或いは外科出術によって睡眠を司る脳の領域を切除しても。

 夢からは逃れられなかった。


 4回見た。

 3回見た。

 2回見た。


 ことここに至り、人々は怖ろしくなった。

 ただの夢だ。

 なんでもないと考えているものが最初は多数を占めていたが、いまでは全人類が同じ認識を持っている。

 〝ザ・カウント〟は、いずれ終わる。

 それで夢を視なかったことになるのか。

 あるいはカウントがゼロになったときなにか怖ろしいことが起きるのか。

 解らない。だが、確実にいま、終わりが迫っている。

 にもかかわらず、人々は前に視た夢のことを忘れてしまう。

 ある学者は、これを大規模な認識災害ではないかと定義した。

 人類の集合的無意識が発する警告ではないかと。

 止める手立てがないまま、現象を続く。


「あの夢を見たのは、これで1回目だった。」


 次はどうなる?

 どうなってしまうのか?

 夢の中でカウントダウンが進んでいるという事柄に対して、誰もが自覚がなかった。

 だが、確実に計器や書類はその果てを告げている。

 そしてきたる次の夢で。


「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」


 カウントは、リセットされた。

 同じくして、世界中に残されていたはずの記録も、また。

 夢は繰り返される。

 人々に残ったのはただ。

 〝ザ・カウント〟という、意味不明な言葉だけだった。

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