第2話
9日前。
私は土曜日の部活帰り、信号無視をして突っ込んできた車の前にいた小学生の子をかばって倒れた。
私は軽い擦り傷や打撲で済み、命に別状はなかった。
が、その後、心的外傷(PTSD)の一環として発生した記憶喪失は、すごく厄介だった。
誰か分からない。知らないこと、わからないことが多すぎて、さらにパニックになって、診断された後は一人で泣いていた。
同時に、毎日来てくれる黒髪の男の子も分からない。
教えて、といったけど、それが原因でパニックになったら困るとのことで、今は教えられないと苦しそうな声で言われた。
「今日は帰るね。長居しても良くないだろうし」
そう言ってまた笑った彼を、じっと見返す。
「また、来てもいい?」
「あ、はい……」
「じゃあまた、由芽ちゃん」
手を振って、病室の扉に手をかけた彼を見て、少し前に尋ねてきた日のことを思い出す。
――『ただね、僕は由芽ちゃんの味方だよ』
帰り際、そう言われたのが強く印象的だった。
それと同時に、彼の笑顔を見るたびにギュッと心臓が締め付けられる。
この笑顔だけは、ぜったいに忘れちゃいけない気がする。絶対に、そう、絶対に。
※続く
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