第2話 転入初日2

「ふふ、貴女も悪いわね」

「そう言いますけど、これ転入条件に含まれてたんですからね。付けたのは一部の上層部あなたたちでしょう?」

詰めるように問えば笑顔が返されるばかり、こりゃ返事は返って来ないな。

「次期封黎者のトップが学園に、なんて困っちゃうでしょ?」

ニコニコと笑う彼女を少し睨み付ければフフフと笑い声を零す。

そう、僕は何故か当代の逢魔守おうまもりに次期逢魔守として指名されているのである。勿論これは国家レベルの機密事項であり、安易に話すものではない。

それでも未夏子みかこ先生が口に出したのは僕にその事実を突き付ける為か、はたまた自身の隠蔽結界(防音付き)を余程信じているか。

(コレ知ってるの封黎者ふうれいしゃの人達と当代の逢魔守の人だけなんだよな……)

僕はそっとため息を吐いた、あまりにも重すぎる荷物である。


「それじゃあ今日からこのクラスに転入生が来ました!」

横から聞こえる元気な声、未夏子先生も元気な先生だとは言っていたが優しいそうなイメージが強すぎてこんなに元気だとは思わなかった。

「皆仲良くしてあげてね、それじゃあ自己紹介をお願い出来るかな」

まるで小学生のような扱いだ、僕は内心溜息を吐くと人当たりの良い笑みを浮かべて口を開いた。

「初めまして、冬代ふゆしろ氷葵ひなたと言います。今日からよろしくお願いします」

自己紹介と言えど名前を名乗るだけで充分だと思い、そこで口を閉ざすとクラス中がガヤガヤとし始めた。そして一人の少女が手を挙げる。

「あの、先生質問良いですか。」

「はい、どうぞ」

初手から質問、しかもそんな時間取れる程SHRの時間は長くない筈なのだが。

「冬代さんって、封鍵オルモスキーは何色なのでしょうか」

……え、わざわざ聞くの?? どうせ対バイアスデル戦授業の時に封銃オルモス使うんだから見るのに。

またもや僕が内心溜息を吐いていると担任である白鶴先生が此方を困ったように見て、答えられる?と聞いて来た。

わざわざ答えるのか……とげんなりとしながら僕は口を開く。

封鍵オルモスキーの色は銀です」

その瞬間、教室内が一層ザワつく、確かこの学年内では僕を含めて二人しか銀の封鍵オルモスキー所持者が居ないと聞いた。

だからこんなにザワつくのかと溜め息を吐くと白鶴先生が席を教えてくれた。

提示された席に行くと横は史深でニコニコとしていて、普段表情がそこまで動かない彼女がここまでニコニコとしているのは珍しいなと思った。

「それじゃあ冬代ふゆしろさんは今日からお願いします、これでSHRを終わりにするので次の授業の準備をして下さいね」


「冬代さんって何処から来たの?」

「ねぇ、好きな食べ物って何?」

「凄い朔倉さんと仲良さそうだけど、どんな関係!?」

SHRが終わって早々、転入生の宿命というべきかクラスメイトに囲まれた。個人的に賑やかなのは苦手なので史深に聞いて早々に授業場所に移動しようと思ったのにこの状況である。

氷葵ひなた

横から声が聞こえて其方を向くと史深が居て、手を差し出された。……握手、ではないよな。

取り敢えず手を差し返すと手がギュッと握られ、そのまま僕の横にちょこんと座るようにしゃがみ込んだ。

……もしかして、側に居たいだけ?

「あの、史深?」

「此処が良い」

「え、でも」

「大丈夫」

史深が言うなら…と言うとクラスメイトの瞳が一瞬軽蔑の色を含んだ。僕に向けてではなく、史深に向けた。

「えっと何処から来たかは事情があって言えないんだけど……好きな食べ物はオムライスで、史深とは小学校が同じだったんだよ」

これが当たり障りのない回答、僕はそこ回答を自己紹介と同じく人当たりのよい笑みを浮かべながら言った。

「オムライス好きなの? 私も好き!」

「やっぱり朔倉さんと仲良いんだ?」

「うん、結構仲良いと思ってるよ」

幾つかの質問に答えているとカーンコーンカーンコーンと予鈴が鳴る。一時間目から移動教室だというのに皆予鈴が鳴ってから準備をし始めた。

「史深、教室移動しよう」

教科書と筆箱を持つと、史深も教科書などを持って手を差し出して来た。さっきと一緒だなと思って手を繋ぐと本人は嬉しそうな笑みを浮かべた。

どうやらご満悦な様子、それにしても気になるのはさっきのクラスメイトの史深に向けられた瞳の軽蔑の色。

やれやれ、これは一筋縄どころじゃないぞ……と心の中で特大の溜め息を僕は吐くのだった。

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