寝ても覚めてもこの現実は続く

さいとう みさき

今日も私は外の風景を見る

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。



「ぜぇぜぇ、またあの夢を見るようになっちまった……」


 そう言いながらベッドから起き上がる。

 隣にいた妻はすでにベッドから姿を消していて、アルバイトに出かけている。


 おもむろに起き上がり窓の外を見る。

 すでに日は高くの上り、もうじき頂点に達するだろう。

 3月も半ばになるとだんだん春めいてくる。


 窓を開け外の空気に触れると、あの肌を刺すような寒さはない。


「もう、春かぁ…… うっ!」


 首筋と首の付け根に痛みを感じ、痛みと炎症止めの軟膏を塗る。

 湿布をずっと貼っているとかぶれるので、先日医者から塗り薬を提供された。

 塗終わり、乾燥したら首を固定するギプスをはめる。

 

 体がだるい。

 しかしこんな状況でも腹は減る。

 仕方なしにリビングに向かうと、日向ぼっこしていた飼い犬が尻尾を振りながらやってくる。

 しかし、その顔は私をいたわるような、心配そうな表情をしている。


「悪いな」


 そう言いつつ頭をなでてやると嬉しそうにするが、私がケガを負っているのを分かっているのか抱っこはせがんでこない。

 何かないかと冷蔵庫の扉の前に行って硬直する。



 そこにはが張られていた。



 一瞬で体がこわばる。

 しかしその内容を見れば、妻が食事を冷蔵庫の中に作ってあるから温めて食べる旨が書かれていた。


 大きくため息を吐き、その紙をマグネットから外しクシャっと握りつぶしてからゴミ箱に怒りを込めて投げ込む。

 そしてゴミ箱に入らず床に落ちるのを見てまたタメ息を吐く。


「はぁ~、張り紙はトラウマもんだよなぁ…… いきなり会社倒産するなんて。しかもその後に駐車場で衝突事故を食らうなんてなぁ」


 そのまま冷蔵庫の前にずり落ちるかのように座り込み、ため息を吐く。


 私は二月末に会社倒産で失業中。

 しかも社会保険事務所へ用事があって行ったら、駐車場で高齢者の車にぶつけられ頸部挫傷。

 先週には叔父の葬儀もあってと、最近良い事が全くない。

 


「いっそ事故で異世界転生したいよ……」



 そんな言葉を吐いても、今は家族を養わなければならない身。

 ではない。

 飼い犬が座り込んだ私の手を舐める。

 

「はははは、大丈夫、私は大丈夫だよ……」




 そうつぶやくしか今は出来ない……


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

寝ても覚めてもこの現実は続く さいとう みさき @saitoumisaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ