不幸、売ります4~あの夢を見たのは、これで9回目だった~

秋犬

あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。ドアを開けると真っ暗な闇が広がっていて、足元の地面が消えて真っ直ぐに落ちていく夢。毎日、日記に夢を書き記しているのだ。数え間違うはずがない。


 最初は疲れているだけでただの偶然だと思っていたが、こう同じ夢が続くと気味が悪くて仕方がない。オカルトの趣味はないが、最近噂を聞いた「呪い屋」なら何か知っているかもしれない。ついでに呪いたい奴もいるので、好都合だ。


 私は「呪い屋」と連絡をとり、後日会うことになった。


***


 呪い屋は私の予想よりもかなり若い男だった。まだ未成年かもしれない。


「あのねえ、うちはそういうのは専門外なんだけどな」

「しかし、こういった話を相談できる人というのがいなくて……」

「夢の話なんてメンタルクリニックで十分だろ……それより、呪いたい奴の写真は?」


 呪い屋に催促されて、私はチームリーダーの写真を渡す。


「新規プロジェクトが立ち上がったのでリーダーをやると張り切って手を挙げたのはいいものの、彼はまとめ役の立場を理解せずただおろおろばかり。全部サブリーダーの私にしわ寄せが来て、しかも『今日は子供が熱が出たから帰る』『授業参観だから有休よろしく』と気楽なもので……」

「良さそうな一家のパパなんじゃないの?」

「仕事に家庭を持ち込まれると、独身の私たちにしわ寄せが来るんですよ!!」


 呪い屋は私と写真を見比べた。


「じゃあ……値段、どうする? 特上、行っとく?」

「いえ、真ん中の上で……」

「そう。あと、いくつかメンクリ紹介しようか?」


 呪い屋に代金を支払ってから、紹介してもらった病院にかかると「ストレスで悪夢を見ている」と診断してもらった。呪いの効果が出れば、きっとストレスもなくなるだろう。


 その後、リーダーの妻が不倫をして子供が学校でいじめをしていたことが発覚したそうだ。あっという間にリーダーは病んで休職扱いになった。結局私の負担は減らず、悪夢は加速していくばかりだった。


***


「大体、9回くらいで悪夢を続けて見るなんて言わないんだよ。それに、ストレスの原因がなくなっても記憶ってのはついてくるんだ。嫌なことだって、過去はなかったことにはできないんだからさ」

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