温泉の停電、故障
「え、それって大丈夫なんですか」
「電気が無くても暖は取れます。石油ストーブも薪ストーブもございます。ただ、温泉はポンプが止まっているので使えません」
うわあ……。全員が溜息をついた。スキーは結構汗をかく。帰ったら風呂いこうぜ、と言っていたので残念だ。まして俺は朝から汗まみれだったというのに。仲居は平謝りをしながら小走りでどこかに行ってしまった。マジかよ、と言いながらそれぞれ部屋に戻る。踏んだり蹴ったりだ。
「そういえば今朝も調子悪いってい言ってたな温泉」
スキーウェアを脱ぎながら津田が言った。そうだ、あの時はポンプの調子だった。しかし今の話では停電からの発電機が壊れているというツーコンボ、最悪だ。各部屋のエアコンは使えないので広間にストーブを置いたから集まるように旅館の人から言われた。
「発電機って壊れるもんなのかな」
「ずっと使ってなくて手入れしてなかったとか?」
そのへんの事情は俺たちにはわからない。部屋に戻る前に売店で買ったウェットティッシュで一応汗を拭いて着替えた。ぼんやりと拭きながら、唐突に思ってしまった。
似ている、昔と。
いや、いやいやいや。似てない、全然チガウ。あの時は体育館に籠るしかなかった。今は旅館だ、しかも観光シーズンなので他の宿や商店街とも連携できる。遭難したわけでもない、どうせ明日には帰るんだ。落ち着け、気にしすぎだ。自分に言い聞かせ、皆で広間に行くと他の宿泊客も集まっている。全体で四十人ほどだろうか。老若男女様々だ。濱田たちとも合流して疑問を口にする。
「いないな、根津さんと柚木」
部屋にいても寒いだけだ。そこでふと疑問に思った。
「なあ、柚木たちが先帰るって連絡入れて来たのいつだ」
俺の問いに濱田はメールを見ると、十五時だという。根津さんから俺に来たメールも同じくらいだ。
「さっき、停電は昼前だって言ってたよな。柚木たちが戻ってきた時も停電で、発電機も動いてなかったんじゃないか。何で二人ともこの事俺たちに知らせなかったんだ」
俺の言葉に濱田がはっとして柚木に電話をし始める。俺も根津さんの番号を鳴らすが、呼び出しはするものの電話には出なかった。濱田も同じらしく少しして諦めたように電話を切る。
「一、二人でしけこんでる、二、実は根津さんはここの宿じゃないので帰ってきてない、えーっと他に何か思いつくことは」
俺の案に皆がうーんと悩んだ。すると赤星が淡々と、「一と二は結局同じ事だろ」とか言ってくるのでうっかり頷きそうになる。
「いや、わかってるけどさ。要はあの二人がこの宿に戻ってるかどうかが知りたいだけ」
「ちょっと聞いてくる」
津田が旅館の人を捕まえて話をし始めた。話を聞いた旅館の人は受付にある紙をチェックし始め、何かを津田に伝えると津田が戻ってきて首を振る。
「戻ってないな。電気使えないからパソコン使えないんで、客の戻りは全部紙に記録してるらしいけど柚木の名前はなかった」
「メールだけしておくか。根津さんにはアプリのアカウント教えてないからな」
俺の言葉に濱田も頷いた。濱田は柚木のメールも通話アプリも知っているので両方にメッセージを送っておいて貰う。なんかこのまま帰ってこない気がしなくもないが。外にいるのなら、停電した旅館にいるよりも他の場所を探すに決まっている。
「俺たちはどうする。余所の旅館探してみるか」
「あるかなあ、このシーズンでしょ」
濱田の意見も最もだ。それほど大きな町ではないうえ、どこもかしこもスキー客だらけ。外国人の客も大勢来ているので町全体がかなり混みあっていると思っていい。
すると案の定旅館の女将さんから説明があり、旅館組合を通じて探してみたが他の旅館はどこも満室だということ、雪の影響で町から出る交通機関が麻痺してきている事を知る。
「発電機って直りそうな故障なんですか」
「主要のものは部品を交換しないとだめだということがわかりました。今、予備電源を動かしています」
要するにすぐに直る見込みがないってことか。女将も仲居も平謝りだ。一体何だこの状態は、と苛立たしげに文句を言う客もいた。俺はと言えば大変な事になったなとは思ったが特別苛立ちとかそういうのはない。振り返って皆を見ればだいたい同じような感じでケロっとしていた。
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