十年前ー6 入ろうと、している
「ああ、ああ! あけてくれあけてくれ頼む助けて早くして早くしろおおおおお! 開けろよふざけんなよお前ら自分たちだけ! あ、あ、あああ待て待ってくれやめてやめええええ!」
生きたいという思いと、死にたくないという思いの最大限の叫びを聞いた。それがきっかけで俺の中にあった静かな悲しみが一気に壊され、本来の感情が溢れ出た。恐怖が、俺を支配した。
外で一体何が起きているのかなど想像したくもない。誰もが動けない中、一生忘れる事のできないような悲鳴が響いた。先ほどよりも酷い、声と言うよりも音と言っていいような凄まじいものだった。すぐに静かになる。誰も外を確認しようとはしなかった。
待ってくれ、と言っていた。やめてくれ、とも言っていた。……誰に、言っていたんだ?
震えた影響で歯がカチカチとなる。この時俺は真っ青になっていただろう。ぎゅっとばあちゃんの手を握っても握り返してはくれず、一気に不安が全身を巡る。
周囲を見ればみんな同じような感じだった。喧嘩は止まったが全員の思考も止まっているようだった。そこへとどめと言わんばかりに聞こえて来るカリカリと引っ掻くような音。カンカン、と叩く音に変わるとすぐにガツン! と大きな音へと変わる。その音に誰かが悲鳴を上げた。
ガン、ガン、ガツン! バンバン!
外から扉を叩く音がする。時々扉が激しく揺れ、どうやら外にいるものは扉を開けようとしているらしいというのがわかる。再びパニックになりつつある状況で、俺は別の意味で混乱していた。
今外にいるのは雪鬼だとしたら、一体いつ、どうやって、どこから出た。そして何より何故出た。いずれにせよもし一度外に出たのなら開けなければいい。今できる事は開けない事だ。
突然ピタリと音が止む。しばしの静寂の後、違う場所からバン! と音が聞こえた。音はゆっくりと移動しながら壁伝いに聞こえて来る。ひ、と誰かが息を飲んだ。
「入ってこれる場所、探してるんじゃ……!」
その言葉を理解した数人が立ち上がり、鍵を確認しろ! と周囲に叫ぶ。とにかくアレが入って来れそうな場所を塞がなくては。
体育館は換気し易いよう窓が大量にある。一階は足元に小さい窓が壁一面、二階は大きな窓が壁一面だ。ただ冬は足元の小さな窓はすべて雪で割れないよう外から板が打ち付けられている。体育館はステージの裏があったり倉庫があったり、普段出入りしない場所に何があるかなど知るわけが無い。もし、一つでも裏口があったら。もし裏専用の換気窓があったら。考えるだけで足がすくみそうになる。
大人たちは一斉に手分けをして窓などの確認に走った。その間も壁がバン、バンと叩かれてその音はゆっくりと周囲を移動している。その音がする方を青褪めながら子供達は見つめ、今どこにアレがいるのかを認識する。
ゆっくりと一周まわっているようだった。バン、バン、と音を立てながら時計回りに移動している。扉も窓も開かない、裏は大人が見てまわっている。入ってこれる場所などない。ないから、諦めてくれ。心の奥底からそう思った。
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