第10話 いつ帰って来る?

思ってた以上にショータはご飯をよく食べた。

明日からはもっと用意しようと思いながら、誰かと一緒に食べるご飯は美味しくて、わたしもいつもより多めに食べてしまった。


「唐揚げうまっ! ポテサラ何これ? うますぎっ! 味噌汁絶妙!」


ひとつひとつ感想を言いながら食べているショータはかわいかった。大人っぽく見えるけど、こういうところはやっぱり高校生なんだ。


夕飯の後、片付けまで手伝ってくれた。




荷物が届いていないショータは、着替えをコンビニで買って来ると言って出かけてしまった。


それで先にお風呂に入ることにした。


いきなり洗面所のドアを開けられて「きゃーっ」な展開はこの家では起こらない。

お風呂と脱衣所のスペースと、洗面所のスペースは別で、それぞれに内側から鍵がついている。

ママの仕事場スペースにはお風呂がなくて、たまに締め切りが迫って修羅場を迎えた時、泊まりになったアシスタントさんがこっちの生活スペースのお風呂を使う。だから、普段から鍵をかけることは習慣となっていて、かけ忘れることはない。


お風呂上がりに上裸のショータが家の中をうろうろしたところで、「きゃーっ」にもならない。


高校の頃、男子バレー部のマネをやっていたから、目の前で着替えをされるのも、夏なんか「あっちー」とか言って、いきなり上を脱いだりされるのも、慣れてしまっている。


今更、上裸を見たところで驚くこともないから、世の中の少女漫画で、いきなりきょうだいができる展開では必ず通る、お互いの下着姿やら裸を見て「きゃーっ」の設定は通用しない。




お風呂から出て、冷たいお茶を飲んでいると、しーんと静まりかえった家の中が、急に広く感じた。


考えてみたら、夜、この家でひとりになるのは初めてだった。


生活スペースにはいなくても、壁を挟んだ向こうの仕事スペースにはいつもママがいた。

取材旅行で外泊が必要な時は、わたしもついて行ってた。


時計を見ると11時を過ぎている。



ショータはいつ帰って来るんだろう?



連絡先を聞いていなかったことに気がついた。

帰ったらすぐに交換しよう。


とりあえずソファに座って、テレビをつけた。

いきなり思っていたより大きな音量が流れて、ビクッとして、すぐに電源を切った。



ショータ、いつ帰って来る?



ひとりで家にいるより、今日初めて会った「弟」に一緒にいて欲しいと思うなんて、想像もしてなかった。


駅からうちまでは一本道で、コンビニはその途中にある。道に迷いようがない。家の近くのコンビニに必要なものがなくて、別のコンビニに行って、道に迷ったとか?

そんなことを考えてすぐに否定した。スマホがあるんだから道に迷ったりはしない。


まさか、事故になんてあってないよね?


急に不安になって、探しに行くために部屋着から着替えて、玄関のドアを開けた。


すると、ポーチにショータが座っていて、わたしを見上げた。

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