第9話 弟は反抗なんてしない

想像では、「反抗的なイケメンな弟」は手伝ったりしなくて、『姉ちゃんの作ったものなんか食えるかよ』とか『お前を家族と認めたわけじゃないからな!』とか言って、部屋に閉じこもるかコンビニにいっちゃうはずだったんだけど……


ショータはわたしの横で丁寧にジャガイモの皮を向いては、包丁の顎で器用に芽をとっている。


「何? じっと見てるけど」

「包丁使えるんだ、って思って」

「これくらいできないと」


もしかして、働いてる母親の代わりに家事をやったりしてた?


あの小学生の写真のショータが、甲斐甲斐しく家事をする姿を思い浮かべて、ちょとばかりキュンとしてしまった。


「ありがとう。ついでに薄切りもお願いできる?」

「これ何になるの?」

「ポテサラ」

「だったら皮剥く前に茹でるんじゃ?」

「時短だよ。薄切りにして、耐熱皿に入れてコンソメかけてチンする」

「コンソメ?」

「ショータくんって、本当に料理する子なんだね」


その後も、わたしが唐揚げ用の鶏肉をキッチンバサミで切ってから、ジップロックに入れて、シャカシャカ振って味をなじませてるのを不思議な顔で見ていた。


「楽できるとこは楽しないと、続かない」

「合理的だ」


感心した顔つきで、手元をじっと見られてると変に緊張する。

時々、もっと間近で見ようとしてなのか、わたしの顔の近くに、ショータが顔を近づけてくるから、変に意識してしまう。


「紗羅、もしかして俺のこと意識してる?」


ショータが後ろから抱きしめるようにして、わたしの首元に顔を埋めてきた。


こいつ……


「危ないからやめて」

「紗羅は包丁持ってないじゃん」

「ショータが持ってる」

「だね。だったら紗羅は動かない方がいいよ。危ないから」


何も出来ずにじっとしているわたしの前にショータは手を伸ばして、ジャガイモの薄切りを始めた。


長くて、きれいな指。


料理のために後ろで一つに髪の毛を結んだせいで、普段は髪の毛で隠れてしまっている耳や首筋が露わになっている。そこに時折ショータの息がかかる。


「ごめん! 無理! ギブ!」


叫んだわたしの声で、ショータは包丁をキッチンの奥の方に置くと、耳元で囁いた。


「ちょろすぎるよ、姉ちゃん」


動揺しているわたしをよそに、ショータは面白そうに笑った。


「後はやって。お腹空かせて待ってるから」


そう言うと、手を洗ってリビングに行ってしまった。



こいつ、危なすぎる……



これじゃあ、「反抗的じゃないイケメンの弟」に、わたしの方が早く落ちてしまいそう。

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