微睡みの精と珈琲追想

ファラドゥンガ

微睡みの精と珈琲追想

微睡まどろみの精』



微睡まどろみは柔らかな毛布を真似て


「瞳を閉じて、お休みよ」と

呟きながら降りかかる


言われなくてもそうするさ……


オレンジ色の甘くて優しい夢と

手足を揃えて踊るのだ


「いやいやいやいやっ!辞めだ辞めだ!」と耳元で

騒ぐは時計の電子音


「貴様、スマホの目覚まし機能に取り替えてしまうぞ!」


叩くとシュンと押し黙る


「あなたは良い子。さあお休み」

微睡まどろみは微笑んで

まぶたを瞳に降りかける


言われなくてもそうするさ……


「ぱちくりぱちくり、起きよ起きよ」


窓の向こうでトリの降臨


「ああ、そうだそうだ」とカーテンの隙間から

朝の光が毛布を剥がす


よし分かった……もう起きる


優しい夢を置き去りに

ベッドからはい上がる




洗面台の鏡の向こう


微睡まどろまとう、ヒトの顔


「大丈夫、あなたは未だ夢の中」

微睡まどろみが背中から手を回して

鏡の中のヒトにささや


「ぱちくりぱちくり……」


ごめんよ、微睡まどろ

朝の使いに見張られているんだ


「そう、それじゃ……バイバイ」

冷たい水が

彼女を引き剥がして流れて行った






『珈琲追想』



パンはトースター、水が火にかかり、テレビはパチンと点いた


椅子に座ってぼんやり眺める


彷徨さまよう視線は未だ夢の入口を探している


テレビの向こうの笑顔たちに紛れて

砂男の影を見た


「君は悪い子だ!さあ眠れ!」

ニヤリと笑い、砂を撒く


ああ、そうだ悪い子だ……さあ、このまぶたにふりかけて……


チンッ!

コトコトコトコト……


二人の朝の使いが邪魔をして

両肩取って、テーブルに向かわせた


テーブルの上に

いつか買ったマグカップ

紺色に冷たく光っている

これでも昔は、似合いの相手がいたのである


ドリッパーにフィルター敷いて

カップの上に乗せる


懐かしい香りの珈琲コーヒー豆をふりかけて

朝のお湯をゆっくりそそ


珈琲豆の盛山もりやま

むくりと頭をもたげるが

やがて底へと沈んで行った


悲しみたたえた涙を真似て

ぽたぽたカップに落ちていく


「ウェルギリウスよ、この円錐形の地獄の底を、僕も降りて行くべきかな」


そうすれば天に召されて

夢の貴方あなたともう一度

オレンジの街灯の下で踊れるだろうか


なんてカッコつける僕に


微睡まどろみは最後

カップの上で白い妖精みたいに踊ってみせた


ありがとう、でも起きなくちゃ


悲しみの底に溜まった

苦くて優しい現実を


僕は一口、飲み込んだ











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微睡みの精と珈琲追想 ファラドゥンガ @faraDunga4

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