第3話
「まあ、何にせよ無事だったからいいだろう?」
「それで済む話だったら魔物なんて脅威じゃないもの。あなたは偉業を成し遂げたのよ。」
宿屋の酒場でミズと夕食を取っている間に『オカン』と宿泊者から呼ばれるオーダーが、話しかけて来ていた。酒場は酔っている人が多いため、常に周りを気にせずガヤガヤと話し込んでいるために、周りからはこの会話はきかれていない。
とはいえ、引き気味でハンクは会話していた。あの廃墟の魔物を倒したのは、まだどこにも報告に行ってないし、そもそもする義務が無いために、男の子だけ治療センターへ運んだっきり、この出来事を無かった事にしようとした。
しかし、魔物の反応が消えたのと銀燭団がまだ不在だったこと、そして何より俺が無事だったことから、すぐにミズに問い詰められて結局全て言ってしまった。
まあ、バットに関してはまだ口を開かなかったが。普通に理解されないだろうし、今回の事件から魔物なんて日常生活で現れることを知ったために、自衛のためにこれは他人の手に渡る事を避けたいと考えていた。
「それにしても怪我一つ無いわね。もしかして外傷を作らないタイプの魔物かもしれないから検査に言った方が良いわよ」
「精神的な攻撃もする魔物も居るのかぁ。そんな危険が周囲に潜んでいるのに、この街は本当に魔物に対しての警戒心が無いなぁ」
「そりゃあ、これまで一度もこの帝国道まで魔物が侵入したことが無かったもの」
……ん?これまでなかった?ちょうど自分が転生した日に限ってこのような出来事が起こってしまったのか?!何かしらの因縁を感じで身震いをした。いやいや、女神様から別に魔王を倒せとか何も依頼は貰わなかった。ただの偶然だよな?
「お待たせしました。『シーフードパスタ』です」
考え事をしようとしたときに、急に横から声が聞こえた。見ると、そこには16歳くらいの容姿をしている、銀髪の女の子が立っていた。特徴的なのはその服装。こんな汗臭い酒場だと、店員は皆専用のエプロンを付けていた。まあ緑生地で目立たせるように黄色かったり、ちょっとダサいっていう言葉が似合うけど。
しかしそれに対して、この女の子はまるで貴族が着けていそうな上品な礼服をそのままエプロンに改造したようなものを羽織っていた。言葉では表現しずらいが、煌びやかだという印象が強かった。
「ほら、魔物を討伐した今だったらソフィア嬢への告白も通るんじゃねえの?」
女の子の方に注意を向けているところに、ミズがドスドスと脇腹をつついてきてむせ返りそうになった。小声でそんなことを言われて戸惑いもあるが、揶揄っている要素丸見えなので、軽くミズの頭をげんこつした。察するにこの女の子が例のソフィア嬢なんだろう。
「ソフィアありがとうね。じゃあそろそろアタシも仕事に戻らなくちゃ」
『おかん』がソフィアの頭を軽くなでてから、厨房の方へ戻っていった。それに対してソフィアは撫でられたことに、嬉しさを感じるなどの反応を全く見せることなく、俺らに一礼して済んだ食器を持って帰って行った。途中で一瞬立ち止まったが、その後は何もなかったかのように厨房の方へ消えていった。
まあただの客に対して淡々としていたのはまだしも、一緒に働いている『おかん』にもあまりリアクションを見せない当たり、機嫌が悪いとかじゃなくて、そういう性格なのだろうと心の中で自然に感じた。ミズはまだ俺の方を見ながらニマニマ笑っている。
「おい、いつものやんないのかよ?」
酔った真っ赤な顔でミズは俺に指差しした。『いつものこと』とか『あれ』とかという決まり文句みたいな言葉に弱い。転生したばかりで全く状況を掴めていない俺は、ミズが揶揄うための罠を敷いたのだと気付いていても、真面目に聞き返さざるえなかった。
「いつものってなんのことだ?」
「ほらほら、ソフィア嬢に注文が終わった後にハンクが立ち上がって、『スマイル一つ追加で!』っていうアレだよ」
それを聞いた俺は茫然とした。マジかよ……ハンク。お前酔っ払いすぎなんだよ……。警備員とかっていう治安維持もしてて真面目そうなやつだなぁと思っていたが、正しくは変態だった。どうやら俺は25歳らしく、多分ソフィア嬢とは9ぐらい年が離れている。なんて恥ずかしい事しているんだよ!!
そして、その日はお酒もろくに入らずに部屋へ戻りシャワーを浴びるなり直ぐにベッドに入る。酔ってないので早く意識を沈めることはできなかった。そこで酒場に丁度、新聞モドキが置いてあったから取り敢えず広げて読むことにした。
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