第50話 作戦会議

 翌日、ソーニャとユリウスの元には騎士たちが集まってきた。皆、聖光教の名の下に、ソーニャを追い詰めたことを謝罪し、二人の魔女の里での経験を聞きたがった。里から来た他の魔女——浄者の仲間たちは、騎士たちに対して、自分たちの持つ力を披露してみせていた。


 コップの中の水を凍らせてみせたヴェロニカに対し、騎士たちの間からは驚きの声が漏れた。


「すごい……これが魔法というやつか!」

「こんな力があれば、とっても便利ね!」

「だが……やはり危険なのではないか? 使いようによっては、自然さえも操れるということだろう?」


 手放しで褒める者もいれば、懸念を示す者もいた。後者に対し、ヴェロニカをはじめとする浄者たちは、力を悪用する意思はないことを力説した。


「何度も言っているでしょう。私たちは、故郷を異国の者の手から守るために、この力を使うのですよ。私たちはただ、つましい今の暮らしを続けたいだけなのです」

「だが、ラストヴァリアは魔女……じゃなくて浄者を尊ぶ国なんだろう? そっちに行った方が、いい暮らしができるんじゃないのか?」


 騎士の一人に問われたヴェロニカは、やれやれというように、首を横にゆるゆると振ってみせた。


「分かっておられないのですね。私たちは、満足していますのよ。別に今更、これ以上の暮らしなんて望んでおりませんわ」

「な、なぜ……?」


 疑問を口にする騎士に、ヴェロニカは答える。


「人間の物質的な豊かさへの欲求は、とどまるところを知りません。ですから、それを捨て去ってこそ、真に充足した生活を送れるのですよ」

「はあ……」


 騎士たちは首を傾げた。どうにも納得いっていないらしい。まあ、分からないならそれはそれでいいわ、と浄者たちは言った。








 その日から早速、騎士団員と浄者たちによる、今後のことについての話し合いが始まった。会議室には、全団員と里からやって来た浄者たちが顔を揃えている。騎士たちと浄者たちは和やかに語り合い、少しずつ打ち解けてきたようだった。


「……それで、ラストヴァリアに対抗すると言っても、具体的にはどうするの? 現状では、我が国は絶対的に不利よ。何せ向こうには、魔法が使える人たちが多くいるのだから」


 まず、オーセが切り出した。彼女は机の上で指を組み、非常に鋭い目つきで向かいに座る浄者たちを見ている。その眼光に射すくめられ、ソーニャは一瞬言葉に詰まったが、一つ深呼吸をして冷静さを保った。そして、唇を舐めてから口を開く。


「まずは、敵の内情を知る必要があるだろう。斥候を数人派遣し、どのように力を得ているのか、弱点はないのか、調査したい。相手も、全員が浄者ではないはずだ」

「へー、スパイ作戦か。そりゃあいい。で、誰が行くんだ?」


 ソーニャの隣に座るユリウスが、話に乗ってきた。その顔には興味津々という表情が浮かんでいる。ソーニャは少し思案した後、再び話し出す。


「私が行こう。できれば騎士団からも何人か手練れを出してくれると嬉しい」

「ちょっと待ってください! 巫王様が自ら行くなんて、危険すぎます! それなら、私に行かせてください!」


 ソーニャの左斜め後方に座っていた浄者の一人が、挙手して声を上げた。他の浄者の人々も、そうですよ、私たちにお命じください、と次々に言い出した。ユリウスはソーニャの言い分も聞こうと言って、彼女たちを落ち着かせた。


「ソーニャ。分かってるとは思うが、敵地に行くっつうことは、危険と隣り合わせだぞ。普通、リーダーってのは一番後ろにどっしり構えて指揮を執るもんだ。のこのこ出てって、とっ捕まっちまうようなことがあれば、無様なだけじゃねえ、エルイーネにとってすげえ打撃になる。せっかく団結してラストヴァリアに立ち向かおうっつう時に何してんだ、って話になるんじゃねえのか?」

「……ああ、分かっている。だが、私自身、知りたいのだ。敵——ラストヴァリアが、いったいどのような国なのか、そこで暮らす人々はどのような生活をしているのか、何を信じているのか。将を射んと欲すればまず馬を射よ、と言うだろう? まずは相手を知り、攻略することからだ」

「だが、あんたは……まあ俺もなんだが、ラストヴァリア側のイーヴァリとかいう奴に顔を見られてるだろ? 面が割れてりゃ、そもそも潜入なんて不可能だと思うんだが」

「そこはご安心を! あたしにお任せください!」


 唐突に割って入った声があり、一同の注目が声の主——ライラの方に向いた。彼女は自信に満ち溢れた顔をしている。


「どうした、ライラ殿。何か妙案でもあるのか?」


 ソーニャの問いに対し、ライラは大きく頷いた。


「はい。あたし、変身魔法が得意なんです! 自分が変身するだけじゃなくて、ほかの人の姿も変えられるんですよ!」

「ほう。じゃあ今ここで、やってみせてくれるか?」

「ええ、もちろん!」


 ライラは元気よく返事すると、目を閉じて胸元に手を置いた。そして、小声で何やら唱え始める。


「……古の精霊よ、我に力を。我が姿を猫に変ぜよ!」


 すると、眩い光がたちまちライラを包み込んだ。その光が消えると、そこにライラの姿はなかった。


「ラ、ライラ殿!? どこへ……」


 ソーニャたちが戸惑っていると、どこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。ふとソーニャが足元を見ると、灰色の毛並みの猫が、ゴロゴロと喉を鳴らしながら彼女の足にすり寄ってきていた。


『どうです、ソーニャ様! あたしの腕、すごいでしょう?』


 頭の中に直接声が響いてきて、ソーニャは仰天した。つまりはこの猫がライラであるということなのだろう。


「ライラ殿……まさか、これほど見事に化けてみせるとは。すまない、正直に言って、私は貴殿の魔法の腕を見くびっていたようだ」

『そんな、頭を上げてください! でも、認めていただけたなら光栄です! じゃあ、戻りますね』


 その声が聞こえるや否や、猫の体が光り出し、光が消えた頃には得意げな顔をしたライラがそこに立っていた。ソーニャもユリウスも、騎士団の面々もすっかり感心していた。


「貴殿の力が凄まじいことはよく分かった。では、私の姿も変えてくれないか?」

「もちろんです! 何がいいですか? 猫? 犬? それとも……」

「人間に変えることはできないのか?」

「あー……そうですねえ。ちょっと難しいかも……でも、ソーニャ様の頼みとあれば、やってみます! 覚悟はよろしいですか?」

「ああ。いつでもいい」


 ライラは頷くと、目を閉じ、両手をソーニャに向けた。

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