第44話 劣勢
エルイーネ王国騎士団の人々は、襲い来るラストヴァリアの軍勢に対し、剣を取って応戦しようとした。しかし、敵は魔法を使って炎や水、植物などを操り、激しく攻撃を仕掛けてきた。未知の力に対し、エルイーネの騎士たちは驚き、戸惑い、挙句の果てに逃げ出す者もいた。
黒い鎧をまとったラストヴァリアの兵士の一人が、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、長柄武器を地面に突き立てながら言う。
「ほう。エルイーネの騎士の実力はこんなものか。口ほどにもない。やはり、穢者の力など、取るに足りなかったな」
「貴様、我が国を侮辱するか! 訳の分からない術など使いおって、騎士道に悖る行為だろう!」
騎士団長ヨルゲンが、大剣を片手で振り回しながら、兵士に肉薄する。しかし兵士はそれをいとも簡単に避け、槍を彼の首に向かって突き出した。その穂先は、何やら赤黒い光をまとっている。ヨルゲンは間一髪で攻撃を躱してから、後ろに跳んで兵士と距離を取り、彼を睨みつけながら問いかける。
「その武器……ただの槍ではないな。いかなる術がかけられている?」
「そう問われて、おいそれと教えるわけがなかろう。だが、これは浄者——貴様らが言うところの『魔女』が持つ力が込められている、ということだけは伝えておく。この力は聖なるものであり、何人たりとも侮辱することは許されない。決して『訳の分からない術』などではないのだ。浄者を尊ばぬ貴様らの文明など、存在価値はない」
「……人は人知を超えた力を恐れるものだ。もしも先ほど、レーヴ家の令嬢が言っていたこと——我らの祖先が『魔女』を滅ぼし、歴史を改ざんしたということが事実だったとしても、彼らの行ったことにいささかの同情はできる」
ヨルゲンの言葉に、ラストヴァリアの兵士の表情が強張った。
「何だと? 貴様は、祖先の行いを肯定するというのか?」
「いや、そのつもりはない。あくまで、同情はできると言っただけだ。いかなる理由があろうとも、他者の生活を脅かして良い理由にはならない」
兵士は再び、満足そうな笑みを浮かべる。
「そうか。エルイーネ騎士団の団長殿は、思いの外、物分かりがいいらしい。どうだ、ラストヴァリアに降る気はないか? 歴史上の観点からして、どちらが『悪者』なのかは明白だろう。貴様とて、偽りと虚飾で満ちた信仰を維持するつもりはないのではないか?」
ヨルゲンは答えず、黙って兵士に大剣の切っ先を向けた。兵士は驚いたような表情になる。
「なぜ俺に剣を向ける?
「たとえ聖光教の教義が偽りだったとしても、この国に住む人々が、信仰に救われてきたのは事実だ。かくいう儂もそうだ。彼らに罪はない。彼ら全てを愚かだったと断じるのは、あまりに残酷すぎる。しかし、教会の嘘が暴露された今、民衆の混乱は最高潮に達している。この
「団長殿。貴様は、自分がその大役を務める資格があると?」
「誰かがやらねばならぬことだ。そしてその役目は、
兵士は黙って聞いていたが、やがて不敵に笑うと、地を蹴ってヨルゲンに迫った。魔力をまとった槍が、彼の眼前に突き出される。食らったらただでは済まないというのが、歴戦の戦士であるヨルゲンには直感的に分かった。兵士は攻撃の手を緩めずに話し続ける。
「我らは、貴様たちの愚行を正すために来たのだ。浄者を迫害し、辺境に追いやったエルイーネの行為に義はない。本来そのような下劣な輩の子孫である貴様たちは、有無を言わずおとなしく降伏すべきなのだ。超自然的力を味方につけた我らに分があることは明白。さあ、早く
ヨルゲンも、応戦しながら反論する。
「……確かに、我々の祖先がしたとされることは、許されないことかもしれない。だが、そのことで子々孫々までもが責められるいわれはないはずだ。儂は、この国と人々を守るために、武器を取る」
「……平行線、だな。もはや話し合いの余地はない。良かろう、実力で決着をつけよう」
兵士の槍とヨルゲンの大剣が思い切り衝突し、火花が散る。使う武器の特性上、ヨルゲンの動きは大振りになりやすい。そのため生まれた隙を、兵士が狙って槍を突き出す。しかし、ヨルゲンはすぐさま剣を振り回して槍を弾き返した。そのまま相手の胴をめがけて剣を振り下ろす。だが、その刃は敵に当たる前に、透明な壁のようなものに阻まれた。
「なっ!?」
驚くヨルゲンに、兵士は平然と言い放つ。
「これは魔力による防壁だ。我々は浄者の加護を受けているからな。これで分かっただろう、貴様たちに勝ち目はない」
「……なるほど。確かに、貴様の言う通り我らは不利なようだ。だが、だからと言って諦めるわけにはいかない。我らの国は、我らが変える」
「ふん、往生際の悪い奴だ。その命、ひと思いに終わらせてくれよう」
兵士の繰り出した攻撃が、ヨルゲンの急所をかすめる。これは一筋縄ではいかない相手だ、とヨルゲンは覚悟を決め、大剣の柄を握る手に力を込めた。
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