第41話 一応の終結
戦況は混沌としていた。
魔法が飛び交い、剣同士が激しくぶつかり合う音が響く。敵味方が入り乱れており、もはや一見しただけではどちらが優勢か分からなくなっていた。
「フレドリカ殿……どこにおられる? 無事か!?」
そのような状況で、ソーニャは得意の剣術で、自らを捕らえようと群がってくる敵をいなしながら、フレドリカの姿を探していた。彼女は非戦闘員だ。何としてでも守らねばなるまい。
右から飛んできた氷塊を切り捨て、左から襲ってきた男のみぞおちに蹴りを入れて退ける。ソーニャはひたすら目の前に現れる敵を昏倒させていった。ふと周囲に目をやると、矢が刺さって呻く者たちの姿が見られた。おそらくはユリウスの仕事だろう。あとで彼の様子も確認せねばと思いつつ、ソーニャは無我夢中で戦っていた。気づけば、背後にあった敵の気配が消えている。同時に、魔力の残滓が感じられた。里の人々が、魔法で援護してくれているのだろう。ソーニャは彼女たちに感謝した。
「……はあ、はあ……」
どのくらいの時間が経ったのだろうか。いつしかソーニャは、倒れ伏す人々の中に立っていた。里の人々も、ラストヴァリアの人々も、ともに倒れている。ただ、皆に息はあった。彼らを踏まないように気をつけながら、ソーニャはまだ立っている人々に近寄る。
「……大事、ないか……?」
「ソーニャ、様……ええ。傷を負ってはおりますが、大したことはありません」
「お気遣い、痛み入ります」
「そうか……それは良かった」
ソーニャは一息ついた。そして、ユリウスとフレドリカを探して辺りを見回す。すると、土煙の中をゆっくりと近づいてくる人影が目に入った。
フレドリカだった。わずかに息を切らし、左肩に手を当てている。
「フレドリカ殿……! 無事だったのか!」
「ええ、なんとかね。ちょっと魔法が肩をかすったりしたけど、平気よ。あなたこそ、頬が切れてるじゃない。大丈夫?」
「ああ。この程度、傷のうちに入らん。……あ、ところで、ユリウス殿を見ていないか?」
「ユリウスさん? さあ、見てないわね」
「そうか……」
ソーニャは肩を落とした。彼が隠れていた茂みの方に向かおうとして、一歩を踏み出した瞬間、行く手を阻むように、一本の矢がソーニャの足元に突き刺さった。
「こ、この矢は……!?」
ソーニャはばっと顔を上げ、四方を見回す。すると、背後でがさりと音がした。弾かれたようにそちらに顔を向けると、ユリウスが肩についた葉を払い落としていた。ソーニャの表情が、ぱっと明るくなる。
「ユリウス殿……!」
ソーニャとフレドリカの姿を認め、ユリウスはニヤリと笑った。そして、二人の方に歩み寄ってくる。
「心配すんな。俺は無事だよ。だが……大惨事だな、こりゃ。立ってる人間がほとんどいやしねえ。これじゃ、どっちが勝ったんだか、よく分かんねえな」
ユリウスの言う通り、現場は惨憺たる有様だった。人々が折り重なって倒れ、地面には血の痕もある。ソーニャは相手の命を奪わないように細心の注意を払ったつもりだったが、他の人々もそうしていたかは定かではなかった。
「……ソーニャ、さん……」
「!」
その時、倒れていた人々の中から、声が聞こえてきた。ソーニャたちはその声のした方に向かって駆けつける。見ると、細い手が伸びていた。ソーニャとユリウスが協力して、上に覆いかぶさっている人をどかした。
すると、下から見知った顔が出てきた。
「アンナ殿!」
「アンナさん!」
アンナはゆっくりと体を起こした。ゆるゆると首を横に振っている。
「だ、大丈夫、か……?」
ソーニャたちはアンナの姿を、頭から足の先までくまなく見回した。体のあちこちに血の染みができている。
「大丈夫よ、魔法で血を止めたから。助けてくれてありがとう。……それより、他のみんなは?」
「……」
ソーニャたちは押し黙った。アンナがため息をついたその時、頭上から聞き慣れた声が降ってきた。
「ほら、あなたたち、何してるの? そんなところで油を売ってる暇があるなら、早く行きなさい」
「カリーナ殿……!?」
空を見上げると、箒にまたがったカリーナが地上を見下ろしていた。
「心配しなくていいわ。誰も死んじゃいないから。それよりも、早く王都に行きなさい。ちょっと見てきたんだけど、あっちにはラストヴァリアの別働隊が向かってるみたいよ。いよいよエルイーネとの戦争が始まったみたいね」
「……!!」
ソーニャは目を見開いた。ユリウスも同様の表情をしている。フレドリカは冷静な態度を崩さなかった。そんな三人の様子を見ながら、カリーナはぶっきらぼうに続ける。
「ほら、その辺にまだ動ける子たちがいるでしょう。適当に連れていきなさい。後始末はアンナとわたしでやっておくから」
「だ、だが……」
「つべこべ言わずに黙って行く! ほら、早く!」
ソーニャたちは顔を見合わせた。そして頷き合い、ソーニャは咳払いをしてから、立っている人々に声をかける。
「私たちはこれから王都に向かう。ついて来ていただける方々はおられるか?」
その声に、まばらに手が上がる。
「あたし、行けます!」
「私も」
「わ、わたくしも……」
彼女たちの真剣な眼差しに、ソーニャは感銘を受けた。すると、ユリウスが声を上げた。
「よっしゃ、じゃ決まりだな。このメンバーで王都に出陣だ! ……と、その前に、ちょっと寄りてえとこがあんだ。付き合ってくれるか?」
「寄りたいところ、とは?」
「着いてのお楽しみだ。ま、もうラストヴァリアの連中にぶっ壊されちまってる可能性もあるが……とにかく行こうぜ」
ソーニャの問いに、ユリウスは意味ありげに笑って答えた。
「あとは頼むぜ、カリーナさん、アンナさん」
ユリウスはそう言い残して、踵を返し、里の方へと駆け出していった。ソーニャとフレドリカ、それから王都への旅に付き合うことになった里の人々も、彼の後を追った。
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