第33話 謝罪とこれからのこと

 ソーニャはアンナに頼んで、彼女の家の前に里の人々を集めてもらった。そして、自分が巫王の血を引いていることを明らかにした。人々の反応は、喜ぶ者、驚愕する者、ただ困惑する者と様々だった。


 そんな中で、アンナがソーニャに声をかける。


「あなたが、エメリ様の娘だったのね。……言われてみれば、面影があるわ。もし、あなたにその気があって、みんなが受け入れてくれるのなら、正式に巫王の座に就いてもらった方がいいかもしれない。そうすれば、ようやくちゃんとした祭祀ができるから、みんな安心すると思う。どうかしら、みんな?」


 アンナの言葉に、人々は一瞬静まったが、すぐに歓声が上がった。


「巫王様が戻ってくるのね!」

「良かった。これで、あの面倒臭い長老に頼まなくて済む」

「長老も、一安心といったところじゃないのかい?」


 思いの外、自分を受け入れてくれている人々の様子に、ソーニャは面食らいつつも安堵した。


「だが、私はまだこの里や浄者のこと、特に祭祀については、何も知らない。申し訳ないが、この不束者に、いろいろと教えてはくれないか?」

「もちろんだよ。あたしたちがビシバシ鍛えてやろう。そして、あんたを立派な巫王様にしてやるよ」

「祭祀は、私たちにとってとても大切なものですからね。それがようやくきちんとした形で行えるようになること、嬉しく思いますわ」


 里の人々の声に、ソーニャはようやく自分を受け入れてくれるところが見つかった気がして、自然と顔をほころばせた。一方で、ユリウスとフレドリカは、深刻そうな顔をして、人々の前に進み出た。


「……本当に、俺たちの先祖が、すみませんでした。あんたたちの先祖の大事なもん、踏みにじって、命を奪って、追い詰めて。もう言い訳をするつもりはないです。何とでも言ってください。甘んじて受け入れます」

「私からも、申し訳ありませんでした。私たちの先祖は、物理的にあなたたちの先祖を傷つけただけでなく、誇りも奪った。その非道な行為は、決して許されるものではありません」


 ユリウスとフレドリカは、皆の前で深く頭を下げた。里の人々はしばらくひそひそと話し合っていたが、やがて示し合わせて二人に向き直った。そして、その中の年かさの一人が前に出る。


「……今更何を言われても、あたしたちは穢者どものしたことを許すつもりは毛頭ないよ。だけど、あんたらには罪はない。あんたらは、この国の真実を知ろうとしてくれたんだ。そのことには、感謝してるよ。だから、頭を上げておくれ」


 それに従い、ユリウスとフレドリカはゆっくりと頭を上げたが、その表情は暗かった。それを見て、ソーニャは胸を痛めた。そして、里の人々の方を向く。


「許さない、というのが、貴殿たちの総意なのだな?」

「ああ、そうだよ。でも、一応あんたの意見も聞こうか。巫王様は、どう思う?」

「その呼び方はまだ慣れないから、ソーニャと呼んでくれ。……そうだな、私も、穢者たちとその先祖が、私と私の真の故郷にしたことを許せはしないだろう。だが……今エルイーネに生き、聖光教を信じている多くの人々は、信仰にすがって生きているのだ。そのような人たちを断罪するのは、私には荷が重い」


 ソーニャの話を聞いて、人々は押し黙った。しかし、ややあって、アンナが口を開く。


「ソーニャさん。私たちは、生まれてから今まで、ずっとここで暮らしてきたの。だから、外の世界のことはよく知らないのよ。もし良ければ、今のエルイーネのことを詳しく教えてくれないかしら? ユリウスさんとフレドリカさんにもお話を聞きたいわ」


 里の人々も、その言葉に賛同の意を続々と示した。ソーニャたちは顔を見合わせた後、頷いて、エルイーネの今の状況について説明を始めた。主にソーニャとユリウスが話し、フレドリカが時折補足をした。


 一通り話し終えると、人々の間からため息が漏れた。


「となると、それだけ聖光教は人口に膾炙するものになってるってわけね」

「一般の人たちは、本気でその教えを信じてるってことか……これはたちが悪い」

「とにかく、私たちの敵は教会ってことよね? それなら、人々の目を覚ますためには、それを倒せばいいんでしょう? 巫王様が戻ってきた今こそ、浄者たちの名誉回復と、王国民の啓蒙の好機よ! 打って出ましょう」

「いや、待て。奴らは武器を持っているし、人数も多い。闇雲に戦いをふっかけるのは得策とはいえないだろう」


 口々に様々な意見を述べる人たちを前に、ソーニャは困惑していた。本来ならば、巫王の血を引くソーニャが皆をまとめなければならないのかもしれないが、彼女にはまだそれほどの信用も実力もない。どうすべきかまごついていると、ふと聞きなれた声が降ってきた。


「あらあら、みんな好き勝手に喋っちゃって。あなたに統率力と人望がないからよねぇ。ソーニャさん、そんなので、あなた本当に、巫王としてやっていけるのかしら?」


 声のする方を見上げると、カリーナが箒にまたがって宙に浮いていた。ソーニャは言葉を失って呆然としていたが、ユリウスは感嘆の声を上げた。


「おお、カリーナさん! すげえな! あんた、空も飛べんのか!?」

「長年の研究の賜物よ。もっと褒めてもいいわ。……で、本題に入るけど。みんな、ちょっと静かにしてちょうだい。あのね、聖光教を倒すのはいいけど、それがもたらす影響をちゃんと考えるべきよ。もし仮に教会を瓦解させられたとして、その後はどうするの? 人々の精神的な支えはどうなるわけ? わたしたちが聖光教に取って代われるとでも思ってるの?」


 カリーナの淡々とした言葉に、浄者の一人が叫んだ。


「じゃ、じゃあ、長老はどうすればいいとおっしゃるのですか?」

「そんなの分からないわ。でも、一つ言えるのは、ソーニャさんは今のままじゃいけないってこと」

「それは、どういう意味です……?」


 首を傾げたソーニャに、カリーナは平然と言い放つ。


「あなたには、浄者の力を使えるようになってもらうわ」

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