第34話 特訓開始
「浄者の力……?」
ソーニャは浮いているカリーナを見上げながら、首を傾げた。カリーナは「まったくもう、世話が焼けるわね」と言いながら、ゆっくりと降りてくる。そして、乗っていた箒を引きずりながら、ソーニャの方につかつかと近寄ってきた。
「今のあなたは、浄者として半人前どころか、百分の一人前にも及ばないわ。そんなので巫王を名乗ろうなんて、おこがましいにもほどがあるわよ。だから、わたしの指導を受けなさい。短期集中で、あなたの浄者の力を目覚めさせてあげる」
「カリーナ殿……かたじけない。だが、なぜそこまでしてくださるのだ?」
「そんなの、決まってるじゃない。祭祀っていう面倒臭い仕事を、あなたに丸投げするためよ。だから、あなたには早く使える人材になってほしいわけ。そうと決まったら、明日から早速特訓するわよ。朝四時にわたしの家に来なさい」
それだけ言い残すと、カリーナは再び箒にまたがり、人々を一瞥して、飛び去っていった。皆は呆気にとられて、遠ざかっていく彼女の姿を見つめていた。
次の日の早朝、ソーニャはユリウスとともにカリーナの家を訪れた。ドアを叩くと、中からカリーナのやや不機嫌そうな顔がぬっと現れた。
「はあ、こんな早い時間から何よ?」
「何って……朝四時に来いとおっしゃったのはあなたではないか」
戸惑うソーニャに、カリーナは眉をひそめた。
「まだ約束の時間まで三十分もあるじゃない。もうちょっと寝かせてほしかったわ」
「いや、騎士たるもの、三十分前行動は常識だ」
「あなた、もう騎士じゃないでしょう」
「それはそうなのだが……まだ癖が抜けなくて」
「まったく、しょうがないわねぇ」
カリーナはため息をひとつつくと、ユリウスの方に視線を向けた。
「で? ユリウスくん、あなたはどうして一緒に来たの? あなたは浄者じゃないんだから、魔力は使えないわよ」
「わーってますよ。でも、ソーニャばっかり特訓して、俺は何もしねえってのはなんか違うんじゃねえかと思って。俺にできることがあれば、何でも言ってください。手伝いでも何でもしますんで」
カリーナはしばらくユリウスをじろじろと見ていたが、やがてふんと鼻を鳴らした。
「分かったわ。じゃあ、あなたには雑用を押し付けてあげる。でも、それだけじゃ多分満足できないと思うから、あなたには別の特訓をさせてあげるわ」
「別の特訓? 何すか、それ?」
ユリウスが首を傾げると、カリーナは黙って家の奥に姿を消した。ややあって、彼女は何かを手にして戻ってきた。そして、その何かをユリウスに渡してきた。
「こいつぁ……弓矢か?」
「そうよ。でも、ただの弓矢じゃないわ。わたしの魔力を込めてあるの。試しに射てみてくれる?」
「いやあ、俺、こういう武器は使ったことねえんだけどな。力仕事はやってきたから、それなりに力には自信はあるけど」
「何よ、文句でもあるわけ? やり方なら教えてあげるから」
「いえ、ないっす。あざっす」
ユリウスはカリーナに促されるまま、見よう見まねで弓に矢をつがえた。そして、十メートルほど先の木になっているリンゴの実に向かって、矢を放った。
矢は的に届く前に勢いを失って、地面に墜落する……かのように見えたが、突然軌道が変わり、矢は再び浮上し、的に向かってまっすぐ飛んでいった。そして、見事命中し、矢はリンゴを深々と貫いた。
「え、今、何が起こったんすか?」
目を瞬かせるユリウスの問いに、カリーナは得意げな顔で答える。
「言ったでしょう、この弓矢には魔力を込めてあるって。射手の腕が悪くても、ある程度なら誤差を修正して標的に命中させられるようにしてあるのよ」
「おおー、すげえっすね! 流石はカリーナさん」
「ふふん、そうでしょう。でも、あなた、筋がいいわね。ちょっと練習したら、わたしの力に頼らずとも、いい射手になれそうよ」
「マジっすか? じゃあ、本気出そっかなー」
「弓矢の練習もいいけど、手伝いもしてちょうだいね。まずは、朝ごはんを作ってくれる?」
「……へ?」
全く予想外のことを言われ、ユリウスは固まった。カリーナはそんな彼の様子を見て、眉をひそめる。
「何よ、もしかしてあなた、料理できないわけ?」
「あ……えっと、簡単なのならできますけど……」
「そう。じゃあ、何でもいいから早く作ってちょうだい。お腹空いたわ」
「わ、分かりました。ソーニャ、あんたも手伝ってくれるか?」
「ああ、もちろんだ。よろしいですよね、カリーナ殿?」
「ええ、いいわよ。早くしてね」
カリーナに急かされ、ソーニャとユリウスは台所へと向かった。
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