第32話 調査報告
翌日から、ソーニャとユリウスは打倒聖光教のための計画を練り始めた。里に匿われたままでは何もできないので、まずは里を出なければならない。しかし、ソーニャもユリウスも武器を持っていない現状では、なす術もなく捕らえられてしまう危険性があった。何とか抵抗する手段を得たいと頭を悩ませる二人のもとに、訪ねてくる客人がいた。
フレドリカである。
彼女は何やら分厚い紙の束を抱えて、アンナの家を訪れた。
「フレドリカ殿。その紙はいったい……?」
「調査結果よ。遺跡を調べて分かったことを、私なりにまとめてみたわ。それをあなたたちにも共有しようと思って」
「そーいや、俺たちも長老……カリーナさんたちからいろいろ聞いたぜ。分かったこと、あんたにも話そうか?」
「是非お願いするわ」
間髪を容れず返答したフレドリカに驚きながらも、ユリウスはソーニャの方を窺った。
「あー……だけど、ソーニャの過去にも関わることだからな。あんまり俺が勝手に話さねえ方が……」
「いや、構わない。フレドリカ殿にも知ってもらった方が良いだろう」
「そうかよ。じゃ、早速話すぜ」
ユリウスは、地元の人々やカリーナに聞いた話を、かいつまんで話した。その話の中には、ソーニャの母にまつわることも含まれていた。話を聞き終わって、フレドリカは小さく息をついた。
「なるほど。ソーニャさんは、魔女……じゃなくて浄者の中でも、とりわけ特別な巫王の血を引く存在だったのね。それにしても、先代巫王が私たちと分かり合おうとしていたなんて初耳だわ。浄者たちは、私たちのことをさぞかし憎んでいるだろうと思っていたのに」
「いや、俺に
「それはそうよね。私たちが直接やったわけじゃないけど、私たち穢者の先祖に迫害されたことは事実なんだから」
「んじゃ、フレドリカさん。あんたの方の報告も聞かせてもらおうか」
その言葉を聞くやいなや、フレドリカは持ってきた紙の束をどんとソーニャとユリウスの前に置いた。
「口で話すより、これを読んでもらった方がよりよく分かると思うわ。何か質問があったら聞いてちょうだい」
そう言うと、フレドリカは鞄から本を取り出し、その場で読み始めた。ソーニャとユリウスは顔を見合わせたが、すぐに報告書を手に取った。
「こ、これは……」
報告書に一通り目を通したソーニャは、言葉を失った。一方で、ユリウスはふんと鼻を鳴らした。
「要するに、もともとエルイーネは不毛の地だった。そこに生まれ育った浄者たちは、荒ぶる自然に祈りを捧げ、巫王を中心として祭祀を行い、暮らしが少しでも良くなるようにと願った。それを何世代、何十世代にも渡って続けた結果、自然の恩恵を受け、浄者たちは自然を操る力……魔力を手に入れた。その力を使って、浄者たちはエルイーネを住み良い環境に作り変えた。そんで、それからも浄者たちは自然への感謝を忘れず、自然崇拝を続けてきた。そうやって、長いことエルイーネは巫王のもとで平和に治められてきた……とかいうのが、遺跡で見つけた石碑に書いてあったことなんだな」
「ええ、そうよ。その他にも、巫王を讃える文言とか、自然への畏怖を綴った詩とかも刻まれていたわ」
「だが……その平穏な日々を壊したのが、穢者ということなのだろう? 遺跡から出土した遺物の中に、聖光教を象徴する菱形の石がついた数珠があったそうだな。それに、王都の博物館に展示されていた青銅器は、古代の浄者が築いた文明のものである可能性があるとか」
ソーニャの言葉に、フレドリカは本から目を上げた。
「あの青銅器は、リーアス神が創造した最古の遺物とされていたけど、私は神の存在に対して懐疑的だったから、信じていなかったわ。一方で、遺跡の奥深くからそれと似たような形のものが多く見つかったの。そのいずれにも、それが作られたと思しき年月日と、当時の王の名前のようなものが彫られていた。王都にあった青銅器には、何かが刻まれていたけれど、消されたような跡があったわ。これは決定的だと思ってね」
「つまり、やっぱり浄者の存在は隠蔽されたってことか」
「でしょうね。でも、今回そういう事実が明らかになったのは、この里の人々が協力してくれたおかげよ。彼女たちには感謝しないとね。そして……穢者たちは彼女たちに謝罪する必要があると思うわ。……ソーニャさん、本当にごめんなさい。私たちの先祖が、あなたたちの先祖にひどいことをしてしまって」
フレドリカは頭を下げた。ユリウスもそれに倣う。
「俺からも、すまん。本当に悪かった。謝ったところでなんかが変わるわけじゃねえが、それでも謝らせてくれ」
ソーニャは突然の謝罪に困惑し、慌てた。
「……あ、頭を上げてくれ、二人とも! 貴殿たちが罪を犯したわけではあるまい。それに、それではまるで私がこの里の代表者のようではないか。私はまだ、浄者としての自覚を持ち始めたばかりだぞ。その謝罪を受け入れるのには相応しくないのではないか?」
「何言ってんだ、あんたは巫王の血を引いてんだろ? だったら、普通に里を代表すんのに値すると思うぜ」
「私もそう思うわ。それに、他の里の人たちには、あとで改めて謝るから、あまり重く考えすぎないで」
二人に揃ってそう言われ、ソーニャはひとまず、
「……分かった。貴殿たちの誠意はよく伝わってきた。だが、穢者の罪を許すか否かということは、私一人では決められない。とりあえず、里の人々と話し合わせてはくれないか?」
と答えた。ユリウスとフレドリカは、それぞれ、
「もちろん。どんな返事であろうと、受け入れるぜ」
「ええ。過去は変えられないから」
と、真剣そのものの表情で言った。
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