『闇の妖精』に出会った俺【KAC20253】
睡蓮
第1話
目が覚めると漆黒の世界にいた。
正確には一点だけがほんのりと光っている。
「ごきげんよう」
「あなたは誰?」
「私を知っているからこそ、お前はここにいる」
光りの中に小さな影が見える。
「まさか……」
「わかったか」
目の前に浮かんでいるのは『闇の妖精』だ。
「俺は……死んだのか」
「正確にはここへ飛ばされたのだが、お前達の世界では死んだと扱われているのだろうな」
感情をあまり感じさせない、淡々とした口調が現実らしくないことに現実感を与えている。
「お前は私に会いたかったのだろう」
そのとおりだ。
『闇の妖精』はRPG『夢幻界のファイナルドラゴン』に出てくるキャラクターだ。
出会う確率は天文学的に低いと言われ、これまでにゲーム実況中に二、三回その出現が確認されている。
しかし、どのプレーヤーもそれを見た数時間後にこの世界から姿を消してしまい、呪われたキャラクターとして今日まで語り継がれている。
俺は真実を確かめるべくこの数年、一日最低三時間はこのゲームをプレイしている。
ゲーム中心の暮らしをしていたと言っても構わないほどだった。
今となっては古典と呼べるゲームになぜそこまで拘るのか。
理由を問われても答えられない。
敢えて言えば、「噂の真相を確かめたかっただけ」だろうか。
「ふふ、だからこうして来てやったのだよ」
「そうか。ところでどうして俺はここに来てしまったのだ」
『闇の妖精』と言ってもたかだかゲームのキャラクターだ。二次元の世界にいる架空の存在が俺の命を奪えるはずもない。
「簡単だ。呪いだよ」
「呪い? ゲームのキャラクターが俺に呪いを掛けられるというのか」
このへんてこりんな世界にいること以上に訳がわからない。
「いや、このゲームソフトそのものが呪われているのさ」
明らかになったのはメインプログラマーがゲーム廃人のような人物で、プレーヤーへの戒めとして呪術を本格的に学んだ上でソフトに呪いを掛けたのだとか。
ちょうど閻魔大王が新しい地獄を作ろうとしていたのでタイミングとしてもバッチリ嵌まったのだとか。
「その……地獄だって」
「そうさ、『無限遊戯』という地獄さ。お前はそこへ落ちろ」
落ちた空間にはPCがあった。
「ずっと遊べるぞ」
そう言い残し、妖精が消えた。
俺はゲームを始めた。
エンディングがわからない。
無限に広いマッピングが意味をなさない世界が広がっている。
コントローラーから手を離せば鬼にムチ打たれる。
寝食を許されず画面から目も離せない。
意図的にゲームオーバーにしてもどこかで勝手にセーブされていて、そこから自動的にプレイが再開される。
眼精疲労を感じ、目が痛くなる。
目を閉じれば、ムチが肩に打たれる。
痛い、辛い、涙が出る……それでもゲームの終了条件には達しない。
「『闇の妖精』を見なければ良かったのか」
そんな言葉がつい漏れる。
瞬間、ムチが飛んできた。
『夢幻界のファイナルドラゴン』の総プレイ時間が五千時間を超えたらランダムなタイミングで『闇の妖精』が出現することを知ったのはそれから考えたくもないほどの時間が経ってからのことだった。
『闇の妖精』に出会った俺【KAC20253】 睡蓮 @Grapes
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