【KAC3掌編】私はヨウセイ。
天城らん
私はヨウセイ。
「うーん。まいったなぁ……」
春先になって、どうも目がかゆい。
気になって鏡を見る度にこすっていたら、瞳の色が変わってきてしまった。
これはまずいと、度なしメガネをかけていたが、今度は耳がかゆくなった。
聞こえはすこぶるいいが、見た目がどうにもよろしくない。
恥ずかしいので、髪で覆い隠していたが、だんだんと容姿があやしくなってきてチラチラと人が振り返るようになってきた。
(これはまずい……。非常にまずい……)
私、
(結果がはっきり出てしまったら、私の今の生活は変わってしまうのだろうか……?)
途方に暮れていると、ついに背中がムズムズしだした。
30センチ定規を入れても届かないところが、猛烈にかゆい。
痛いより、かゆい方がましという人もいるだろうが、届かない場所のかゆみというのは形容しがたい苦痛とも言える。
私は、観念して病院で検査を受けることにした。
*
専門医は、私の姿を見るなりいう。
「あらら、これは検査するまでもなく陽性だと思いますがどうします?」
「検査してください! でないと、覚悟が決まらないので……」
私は一縷の望みにすがりたい気持ちだ。
春先にこんな症状になって、生活が一変するならそれなりの証拠というか証明を見たい。
そうすれば、この事実を受け入れられる気がするから。
白い腕から、わずかばかり血液を採られる。
結果は15分程度で出た。
「杉山さん、やはり陽性です」
私は、大きなため息を吐いた。
「やっぱり、私、『妖精』だったんですね……」
「はい、妖精因子含有検査は陽性です。このあと、役所で手続きをしてくださいね」
ショックは隠しきれないが、ちゃんと役所に申請すれば、色々と優遇措置もあるし悪くはない。
私の祖先に、人ならざる者。つまり『妖精』の血が混ざっていたということだ。
こういう人間は、一定数いるし、私のように先祖返りして容姿まで変わってしまう人もそこそこいる。
ちょっと寿命が延びたりというプラスの特性もあるが、妖精というのは割と目立つ容姿になってしまう。
目も平凡な茶色だったはずなのに、気が付けば美しい
極めつけは背に生えた羽だ。
「はぁ……。これからどうしよう……」
目や耳は隠せても、この羽を隠すのは難しそうだ。
「そう落ち込まないで下さいよ。すばらしいことですよ? 飛ぶためのリハビリ訓練もサポートしますよ」
「空を飛ぶか……。便利そうだけど、弊害も多いって聞きますし」
背中がかゆいと思った日から、徐々に羽は成長して、今では飛べそうなほどの大きさになってはいる。
透き通るガラス細工のような羽だが、これに自分の体を預けて飛んでみる気にはまだなれない。
「もう少し考えてから、お願いします。まずは役所に行って、その後は周りに色々説明しないとですし」
「そうですね。落ち着いたらぜひいらしてください。飛べると色々と仕事の幅も広がりますよ!」
医者はやや食い気味にまくし立てる。
いったい、どんな仕事があるというのだろう?
宅配便屋さん? それともテーマパークのキャスト?
私にはそれ以上のことは思いつかなくて、とりあえず羽をパタパタさせて、やや興奮気味の医師の頭を冷やしてあげた。
🦋 お わ り 🦋
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【KAC3掌編】私はヨウセイ。 天城らん @amagi_ran
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