第3話
その後の大会は負けずに決勝まで進むことができた。
あれから彼女とは会っていない。おそらく塞ぎ込んでしまっているのだろう。結局手術は間に合わず、あの2人は亡くなってしまった。一応、同じ家で過ごしてはいるものの、部屋から出てこないので、何もない。ただ、僕は彼女と同じようなことをする気はない。だって僕なりの方法で、きっと彼女が楽になれると信じてるから。
そこからは、ぶつかり合いだった。相手も優勝候補筆頭と呼ばれるどころか、この大会のその先の大会での優勝候補と言われているくらいだ。僕らもよく戦えてはいるものの、じりじりと離されていってしまう。
でも、やはり大きな出来事とは、突然起こるものなのだろう。
最後の2分を5点差で残して、やっぱりあいつは来ないかと思いながら、観客席を眺めていると、突然入り口の扉が開かれ、ある人物が顔を出す。その人物は、僕と目が合うなり、
「がんばれー!」
大きな声でそう言った。とても大きかったため、多くの人がそちらを見る。そうなることで、そこまで目立つのが得意ではない彼女は見えなくなってしまうが、僕にはそれだけで十分だった。
「みんな、これは完全に僕の私情だ。でも、あいつのために絶対勝ってやりたい。どうか最後に協力してくれないか?」
僕チームメイトにそう頼む。少しの間、無言が続くが、
「あったりまえだろ?ってか、いつも俺らが頼ってんだから、たまには頼ってくれよ?キャプテン君♪」
「、、、ありがとう」
「そうだ!キャプテンが数少ないお願いをしてきたんじゃないか!みんな死ぬ気で勝ちに行くぞー!」
「「「おー!」」」
本当に僕は恵まれている。悲しみに暮れても、掬い上げてくれる彼女がいて、困った時に助けてくれる仲間もいる。確かに悲しいこともあったが、それだけではなく、その出来事は幸せも運んできた。今度は僕が運ぶ番だ。
そこからは、僕ら全員ぶっ倒れる気で動き続けた。全員でボールを追い、全員で攻め、全員で守る。そのおかげで、ゆっくりと差が縮まっていく。でも、それに合わせて時間も着実に減っていく。相手は時間を使って、勝とうとしているため、ボールを取らなければいけない。
それもまた、突然のことだった。仲間が一生懸命手を伸ばしてボールに触ったのだ。そのボールは軌道が変わり、僕の目の前へと転がってくる。残り時間は5秒しかない。
拾うのに、2秒かかった。
残り3秒。
ゴールの近くまで行くのは間に合わない。でも、観客席で見守ってくれてるであろう、彼女のためにも、諦めるわけには行かない。僕は少しでも、少しでも、とゴールに近づき、ゆっくり、丁寧に手からボールを離した。
そのボールはゴールへと向かい、リングに当たって、大きく上に跳ねる。その時、僕らの声は重なった。
「「入れー!」」
その思いが通じたのか、ボールはリングをまっすぐ落ちて、通過していく。
数秒の沈黙。それは、僕らが喜びを感じるには十分だった。
「「「うぉー!」」」
観客も、仲間もみんな揃って喜ぶ。
ちらっと、観客席を見てみると、彼女は大きく笑ってくれていた。僕は、それに対して、笑みを返す。
おそらく僕は、ここまでの激動だった出来事を、忘れることはないだろう。
第三話です!
次がエピローグとなります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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