第5話 すくすく育つ怪物

老人と子供が1人、木剣を手に激しい打ち合いをしてると、木剣を持ってヨタヨタと千鳥足で幼児が近づいて来た。

「どうしたアギト?わしに何か用か?」

「ひぃじぃ、おえも!おえも!」

「こらアギト危ないだろ、俺が今習ってる所だから邪魔しちゃダ~メ!」

ケインが若干呆れた様子で言うと

「にいに、一緒やろ」

歯が輝かんばかりに、にぃと笑いながら 3歳になったアギトは修行に混ざろうとした。

「ふふふ、お前にはその木剣は少々長かろう。この木剣を持って、そこの木の辺りでこの前教えた素振りを練習してなさい。」

そう言いながらギヤスは懐から40cm程の木剣を出してアギトへと渡す。

「あい!」っと元気に返事をするやアギトは、木剣を引ったくるように取ると10m程先の合歓木ねむのきによく似た大木へと走って行った。

「初代様、最初から準備してたんですか?」

「何、マジックバッグに入れっぱなしだったのよ」そう微笑みながらギヤスはアギトが置いて行った木剣をマジックバッグに収納すると

「さあ、続きだ」ニヤリと口角を上げた。



(楽しい。楽しい。剣を振ってるとどんどん楽しい。)

アギトは幸福の中に居た。気づいたら短刀〈刃を潰した練習用〉を何時も握っていたし、武器を持ってると不思議と力が漲った。

二歳になる頃には初代に剣を教わり始め、最近は数種類の素振りを何セットも体力の続く限り行っている。そして今日も何時もの様に一心不乱に素振りを行っていると、知らぬ間に身体が今まで覚えた素振りの型を組み合わせて振り始めた。

アギトの頭は純白に染まり思考の一つもなく本能のままに動いていて、それは荒々しくも美しい舞のようでもあった。

その舞のような素振りを続けるアギトを見て何時しか二人も模擬戦を止め見入っていた。

「う、嘘だろ……」

「ふむ…末恐ろしいな」

落ち着いた口調とは裏腹にギヤスは驚愕していた。3歳ではあり得ない動きは元より教えてもないのに型を繋げ最適解の動作を繰り出す。更にはうっすらと根源たるエネルギーのエーテルを身に纏っている。

人は体内のエーテルを体外に放出するとその人の持つ色が着く。この色が着いた状態のエーテルを魔素と呼び、その色によって使える魔法が変わる。人によっては何種類も色を持ち、それを自在に好きな色の魔素に変換し自分の思うままの魔法を操る。

だから居ないのだ。エーテルのまま体外に放出する人間は……自分以外に…いや、自分も厳密には違う、エーテルと限りなく同色の色に変換されているのだ。

実戦はまだと言えど解る。あの子は戦の申し子だと、何者もをも到達の出来ぬ高みに行く者だとー

思考の海に沈みかけた所で一旦考えるのを止め、弟の才能の前に心が折れそうになっているひ孫の頭にそっと手を置いて

「ちょっとあれは特別だな。儂でも見た事が無い傑物だ。

それにお前の目指す武は全く方向性が違う。己の才覚にあった道を進むのだ。

ふむ、そうだな。明日から儂との稽古の後にお前専属の師を1人付けよう。そこにお前の進む道がある。

だからそんな顔をするな、ひい爺は悲しいぞ」

「ん、うぐ、おで…強くなれる?」

「ああ、なれるとも。家の一族では誰も居ない系統の強さだ。その貴重な才能を潰さぬよう励めよ」

後はただひ孫が泣き止むのを優しく頭を撫でながら静かに待つのみであった。






第一話少し加筆修正しました。


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