第5話 夢、と呼べるようなもの
「失礼します」
「はい。最後、カレンさんね。どうぞ」
一気に就活の面接みたいな雰囲気になる。「面接官」も西條さんの他に3人くらい増えていて、緊張が増した。
「どう? 面白かった?」
ドクドクと鼓動が鳴り止まない。これまでの就活のどれよりも口の中がカラカラだった。
「面白かった。正直、楽しかったです。みんなと笑い合って励まし合ってここまでやってきて。ファンのみんなとも楽しい時間を作れたし」
「うん。配信もレッスンもどんどん輝いていく姿が見れました。それで、オーディションを受けてみてどうだった?」
私は、素直に話した。オーディションを受ける前のこと、そしてオーディション中のこと。こんなに語れる自分がいることに驚きながらも、言葉は次から次へと止まらなく出てくる。
だけど、西條さんは一瞬だけ唇をかんだ。悪い予感が背中に走る。その予感は的中して。
「不合格」──という言葉だけがはっきりと聞こえた。
私はアイドルになれなかった。
*
「カレンちゃん!」
「えとちゃん、どうし──」
全体への合格者発表のあと、駆け寄ってきたえとちゃんがハグしてくる。
「イヤだ! なんで? なんでカレンちゃんがいないの?」
なんでってそれは選ばれなかっただけ。
「やる気がなかったからかな。やっぱり、えとちゃんみたいに頑張ってきた人がアイドルになれるんだよ」
「やる気がないなんてウソだよ!」
えとちゃんがさらにキツく抱き締めてくる。
「頑張ってたよ、カレンちゃんも! 最初は違ったかもしれないけど、カレンちゃんだって本当は思ったでしょ? アイドルになりたいって!」
「アイドルに? 私が?」
わからない。アイドルになるなんて思ってもいなかった。なれるなんて思ったこともなかった。
だけど。
「楽しかった。みんなといれて楽し、かった……よ」
なぜか涙が落ちてくる。我慢しようとしても止まらない。自分のことなのに自分がわからない。大学生にもなって、こんなことは初めてだった。
*
みんながいなくなったあと、私はSNSを見ていた。応援してくれた人たちの励ましと応援のメッセージが何個も何個も書かれている。
「カレンさん」
そこへ現れたのは西條さんだった。
「夢中になれるもの見つかった? 人生をかけられるようなそんななにか」
「見つかってません。十何年生きてきて見つからなかったんです。そう簡単に見つかるわけない」
「そう」
「でも、夢、と呼べるようなものなら見つかりました。……アイドル。もう遅いかもしれないけど」
西條さんはくるりと背を向けた。
「実はね、急遽、追加でメンバーを探すことになったの。みんながもう一人絶対必要だって言うから」
「それって──」
「受けてみる? オーディション?」
私は涙を拭うと、心の底から返事をした。背中に熱いものが流れていた。
無気力症 フクロウ @hukurou0223
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