第8話陰

太郎が突然、転職した。太郎が言うにはずっと現場が良かったのに出世してデスクワークになって嫌で何十年間も勤めていた会社を辞めたらしい。今は弁当作りの会社にいる。


「メンタル的に参った?」


「ちょっとね。俺は現場仕事が向いてるから。」


それ以上は聞けなかった。太郎が決めた事に口出しは出来なかった。


太郎は、優しくて愚痴の一つも溢した事がなかった。そんな太郎でも嫌な事があったのだろう。だからといってわたしは太郎を嫌いに一ミリもならなかった。逆に人間らしさがある太郎に惚れ直した。そして亮のキャチボールの相手を頼んだ。太郎は軽くOKしてくれた。


河川敷で待ち合わせた。


亮に太郎は丁寧に挨拶をしてくれて亮は挨拶を忘れた。


三時間ぐらい黙々と太郎と亮はキャチボールを繰り返していた。わたしは、見守っていた。


亮には、友達だと太郎の事は言ってある。


中学生になったばかりの子にはどんな影響が出るか分からないからという太郎からの提案であった。


二人とも汗だくになりながらキャチボールを続けていた。


キャチボールを終えて二人とも着替えて三人で中華料理店に入った。亮は、いつもより無口だった。太郎は、自然体だった。


食事を終えると駅で太郎とは別れた。


亮は、一切、太郎に対して何も言わなかった。


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