第6話 ゴブミンさん、溜息をつく
「きゃああああああああ♪」
遊園地にゴブミンさんの歓喜の絶叫がこだまする。僕はその隣で声も無くブルブルと震えていた。そんな僕を無視する様にジェットコースターは凄い速度でレーンを駆けて行った。
「大丈夫か?ほれ水を買って来てやったぞ」
「あ、ありがとうございます、助かりました」
ジェットコースターが終わり、ベンチに項垂れて動けなくなった僕に、買って来たペットボトルの水を差し出してくれるゴブミンさん。マジで天使、いや最早女神である。ゴブリン女神だ。
「それにしてもジェットコースターか、あれは良い乗り物だ。あの疾走感は私の居た世界でも早々感じられるものではない。ドラゴンの背に乗れば同じぐらいかもしれないが」
やっぱりドラゴンが居るらしい。色んな種類が居るのだろか?男の子としては少し気になるところである。
「こんなに良い物を作れるのに些細なことで争ったり差別したり、この世界の人間という生き物は本当によく分からない」
ベンチに座って、ゴブミンさんはしみじみとそんなことを呟いた。それに関しては僕も同意である。自分もこの世界の住人でありながら、自分達の種族のことがよく分かっていない。むしろ大人に近づくにつれて増々訳が分からなくなるばかりだ。税金は上がるし戦争は起きる、誰もが人を妬み、不幸話で笑顔になる。それだけ聞くとロクでも無い種族かもしれない。けど、それだけが人間じゃない。
「ゴブミンさんは、まだこの世界の人のことが嫌いですか?」
「うーん、分からなくなった。悪い奴も居れば、お前みたいに良い奴も居る。本当に分からない。けど世界のことを一方的に嫌悪する気にはもう成れない。悪いところばかりに目を向けないで、この世界の良い所にも目を向けてみようと思う。ありがとう、お前のおかげだ。感謝する」
ペコリと頭を下げるゴブミンさん。僕は何も大したことなんかしていないのだが、お礼をされると嬉しいと同時に照れてしまう。
「ゴブミンさん、次は何処に行きたいですか?」
「そうだな。あのグルグル回ってる水車みたいなヤツが良い」
「あー、観覧車ですね。僕もジェットコースターで疲れてしまったので、あのぐらいが丁度良いです」
ゴブミンさんと密室の空間で二人っきりというのはドキドキしてしまうだろうが、邪な気持ちだけは持たずに、理性を保つことだけに集中しよう。
僕らを乗せた観覧車はグルグルと周り頂上に辿り着いた。ゴブミンさんは僕らが住む町を見下ろして、フーッと溜息をついた。その溜息の理由は分からないが、何も悪いから溜息をつくばかりでは無い筈だ。だから僕はあえて彼女に溜息の理由を聞かなかった。きっと良い意味の溜息だと信じることにしたんだ。だって遊園地で見せた彼女の笑顔は本物だったと確信できるから、彼女が少しはこの世界のことを好きになってくれたと思うんだ。
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