第5話 ゴブミンさん、タコ焼きを食べる
「わ、私がいっぱいいる‼」
ゴブミンさんがミラーハウスに入って一番最初の言葉がこれであった。
ミラーハウスは地味かな?と思ったけど、存外楽しんで居るみたいでホッとした。
「アイタ‼」
ゴチーン‼と頭を打つゴブミンさん。ミラーハウスあるあるではあるが、ゴブミンさんの額が固いせいか、ミラーハウスの鏡に少しだけヒビが入ってしまった。このままだと危ないかもしれないので、あとで係の人に言っておいたが笑顔で「大丈夫ですよ」と返してくれたので助かった。
次はお化け屋敷に来た。暗がりの中を二人で歩いていると、ギャアアアアア‼と悲鳴を上げながら、白装束のお化けが出てきたが、ビクッと体を震わせて驚く僕を他所に、ゴブミンさんは至って冷静だった。
「これがお化けか?私の世界のゴースト族とは毛色が違うな。向こうは透明になったりして苦戦するが、コイツ等は実体があるから物理攻撃が効きそうだ」
両の拳を上げてファイティングポーズを取るゴブミンさん。今にもお化けに殴り掛かりそうだったので、僕は彼女の手を強引に引っ張ってその場を後にした。それから先のお化けにも彼女が一切ビビらなかったのは言うまでもない。
お化け屋敷を出ると、僕ら二人はフードコートでお昼ご飯を食べることにした。
「何かこの世界で美味しいものを食べさせてくれ」
と、ゴブミンさんからのリクエストがあったので。ベターではあるがタコ焼きを食べることにした。
「タコってどんな生き物だ?」
ゴブミンさんからこんな質問が出たので、僕は何と答えて良いか迷ったが、オクトパスで伝わるかな?と思い「オクトパスです」と言ったら、彼女の目が殺意に満ちた目に変わった。
「あのオクトパスか?私達ゴブリン一族を一度は滅ぼし掛けた、あの史上最低の悪魔か?」
どうやら地雷だったらしい。タコ相手にここまで殺気を出す人を初めて見たが、これも異世界間ギャップかもしれない。
「そ、そうですけど、タコ焼き食べるのやめますか?」
「いや大丈夫だ。あんなものを食べても美味しいか分からんが、この世界には『郷に入っては郷に従え』という言葉があるのだろう?私もそれに習ってオクトパスを食べることにしよう。魔除けにもなるかもしれないしな」
会計を済ませて数分後にタコ焼きが出来上がり、それを持って二人で向かい合う様にテーブル席に座ると、ジーッとゴブミンさんはタコ焼きを見始めた。
「こ、この中にオクトパスが入っているのか?」
「はい、タコが大きいって書いていたので、大きめのぶつ切りが入っていると思います」
「何?ぶつ切り?あのオクトパスをそんな風にして倒したのか?この世界の人間は凄いんだな?」
多分ゴブミンさんの想像しているオクトパスと、僕が知っているタコではサイズ感に雲泥の差があるだろうけど、そこをイチイチ説明するよりも、熱々の内にタコ焼きを彼女に食べてもらいたかった。
「その爪楊枝で刺して、パクッと食べるんです」
「この小さな槍のことだな。刺して……このままパクッと……」
パクッと食べたゴブミンさん。そういえば何も考えて無かったけど、熱いのは平気なのだろうか?
「ふぁふ‼ふぁっふ‼」
どうやら駄目だったらしく、じたばたともがき苦しんでいる。僕は慌ててもがき苦しんでいるゴブミンさんに水の入ったコップを差し出したが、彼女は水も飲まずにタコ焼きをゴクリと飲み込んでしまった。そうして一言。
「美味い‼」
満面の笑みである。どうやらお気に召したらしい。ホッと胸をなでおろす僕だが、その後で突然ゴブミンさんが舌を出して来たので何事かと思った。
「舌を火傷してはいないだろうか?」
ゴブミンさんの紫の長い舌はとても美しく「綺麗だ」と言いかけたが、寸前の所で思い止まることが出来たので助かった。
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