第2話 ゴブミンさん孤立する
田所です。ゴブミンさんは異世界からの留学生、その上ゴブリンということもあって、休み時間にクラスメート達はこぞってゴブミンさんの所に集まった。
「ねぇねぇ、どうして肌の色が緑色なの?」
「ゴブリンってやっぱり人を襲ったりするの?」
隣で聞いているとデリカシーの無い質問ばかりで、何だか無性にムカムカしてきた。それはゴブミンさんも同じなのか返事をしないばかりか、無表情のまま微動だにしない。まるで美しい彫刻になってしまったみたいだ。
初めの内は囲み取材みたいにクラスメート達はゴブミンさんにあれやこれやと聞いていたのだけど、ゴブミンさんが無視を貫き通すので、その内に面白くなくなったのか、二、三日もすると誰もゴブミンさんの周りには人が居なくなった。イジメなんかは無かったけど、すっかり孤立してしまったゴブミンさん。けれど、そんなことはどうでも良いといった感じに、欠伸をしながら彼女は淡々と一日が過ぎるのを待っている様だった。
「欠伸した時に見たけど、アイツ口の中が紫色だったぜ」
「マジかよ気持ち悪いな」
ゴブミンさんが居ない時に、男のクラスメート達がそんな話で盛り上がっている。どうしてそんなことで盛り上がれるのだろう?ムカムカを通り越して軽蔑してしまう。肌の色も口の中の色もどうでも良いじゃないか、そんなこと言いだすから未だに人種差別なんかが無くならないんだ。
ゴブミンさんが帰って来ると、そんな風な影口も聞こえなくなる。きっと魔物である彼女への恐れの気持ちがあるのだろう。怖いと思うなら言わなければ良いのに、こういうところに人の矮小さが垣間見える。
その日の授業が終わり下校の時刻になったのだが、ゴブミンさんは机に突っ伏してスーッと寝息を立てて寝ていた。クラスメートはおろか担任の先生すら、それに気づいていながら起こす素振りは見せなかった。得体のしれない存在を起こして、ひょっとすると危害を加えられる可能性があると、彼女を恐れたのかもしれない。
こうして見ると人間が如何に自分達と違う生き物を恐れているか分かる。それもそれが人間に近ければ近い程に些細な違いに恐れを抱くのだ。僕だって少しばかりそんな気持ちがあるが、このままゴブミンさんを放っておけなくて、クラスに誰も居なくなった頃合いを見て彼女を起こすことにした。また馴れ馴れしいと言われてしまうかもしれないが、自分の好感度などこの際どうでも良かった。
「ゴブミンさん起きて、もう下校時刻だよ」
声を掛けてみたが起きる様子はない。仕方ないので左手で彼女の右肩をゆすってみた。
「うぅん……ん?」
そんな声を出した後、彼女は顔を上げて僕の方を見た。また辛辣なことを言われる前に、一応の弁明はしておかないとな。
「あ、あの、もう下校時刻だから。起こさないといけないかな?って思って……迷惑だったかな?」
僕がそう聞くとゴブミンさんは頭をポリポリ掻きながら、バツが悪そうにこう返して来た。
「すまない、寝てしまうとは不覚だった。起こしてくれたことには礼を言う。今日はお婆ちゃんに早く帰る様に言われてたんだ」
「そ、そうなんだ。それなら良かった」
今日も言葉で僕のハートを砕きに来るのかと思ったが、流石にそこまで嫌われてはいなかったようだ。そればかりか不意打ちにこんなことを言われてしまった。
「お前、結構良い奴だよな。ゴブミンの悪口も言わないし」
彼女は何の気なしにそう言ったのだろうけど、僕は嬉しくて小躍りでもしたくなった。いや、もちろんそんなことを彼女の前でするわけ無いけど。
「もう帰る、じゃあまた明日な」
スクッと立ち上がり、ゴブミンさんは足早に教室を出て行こうとする。そんな彼女の後姿に「また明日」と声を掛けたが、彼女は一切振り返らずに教室を後にした。
さてと、とりあえず小躍りでもしておくか。
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